研究課題/領域番号 |
21K04657
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
我田 元 明治大学, 理工学部, 専任講師 (40633722)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 酸化ガリウム / エピタキシャル層 / 水溶液法 / Chemical Bath Deposition / ヘキサフルオロガリウム酸アンモニウム |
研究実績の概要 |
本研究では、次世代パワーデバイス用材料のひとつとして期待されるβ-酸化ガリウムエピタキシャル層を水溶液法により形成することを目的とする。通常、β-酸化ガリウム層は500℃~1000℃の高温かつ高真空を利用する気相法で作製される。それに対し、低温・低温エネルギー、かつ大気圧を利用する水溶液法でのβ-酸化ガリウム層形成が可能となれば、環境負荷の低減だけでなく、製造コスト低減によりβ-酸化ガリウムの普及への一助となると考えられる。本研究では、水溶性ガリウム塩であるヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムを合成し、その水溶液中での加水分解反応を制御することで、従来は困難であった水溶液中でのβ-酸化ガリウム層形成を目指す。また、Non-Seed CBD (Chemical Bath Deposition, 化学浴堆積)法を利用することで、β-酸化ガリウムエピタキシャル層の低温直接形成を目指す。 本年度は、ボールミル装置の導入とヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムの合成に注力した。硝酸ガリウムn水和物とフッ化アンモニウムのメカノケミカル反応によるヘキサフルオロガリウム酸アンモニウム合成を試みた。原料由来の水和水が存在するため、ヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムと副生物の硝酸アンモニウムが両方とも溶解した状態の溶液が得られるが、貧溶媒析出法を利用することで、ヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムを分離できることを見出した。得られたヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムは不純物相をわずかに含むが、全て水に溶解したことから、ガリウム含有量を定量すればβ-酸化ガリウム成膜実験に使用可能と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、水溶性ガリウム塩である、ヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムの合成に注力した。XRDパターンよりほぼ単相でヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムが得られたため、概ね当初計画通りに研究が進行したと言える。 先行研究では、フッ化ガリウムとフッ化アンモニウムのメカノケミカル反応によりヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムを合成した(J. Am. Ceram. Soc. 2004)が、フッ化ガリウムは非常に高価であり、成膜のための十分なヘキサフルオロガリウム酸アンモニウム量の確保が困難と分かった。そこで、比較的安価な硝酸ガリウムn水和物とフッ化アンモニウムのメカノケミカル反応によるヘキサフルオロガリウム酸アンモニウム合成を試みた。原料由来の水和水が存在するため、藩王後は溶液が得られ、これを乾燥すると、ヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムと硝酸アンモニウムの混合物が得られた。そこでこれらを分離するために、貧溶媒析出法を利用することとした。硝酸アンモニウムは水への溶解度が大きく(1900 g / L)、エタノールにも可溶(38 g / L)である。ヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムの溶解度データは調査した限りでは存在しないが、フッ化物塩であることからアルコールへの溶解度は低いと考えた。そこで、混合物を水に溶解しアルコールを加えたところ、白色沈殿が得られ、乾燥後の粉末X線回折により、それが主としてヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムであると分かった。乾燥後の粉末は完全に水に溶解したが、同定不可の不純物相もわずかに生成することから、実験条件の検討が必要であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究によってヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムを主相とする前駆体の合成に成功した。次年度は引き続きヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムの合成や精製を行うとともに、Non-Seed CBD法による酸化ガリウム成膜にも着手する。 ヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムの合成については、貧溶媒析出の際により長鎖のアルコールも用いることで、硝酸アンモニウム由来の不純物を低減することや、水和水を含まない塩化ガリウムを原料とし、生成物をアルコール洗浄することなどを試みる。 酸化ガリウム成膜においては、まずは、ヘキサフルオロガリウム酸アンモニウム水溶液の反応性を確認する。ヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムとホウ酸を所定の濃度に調製した溶液に、アンモニア水を滴下し、pH変化による析出挙動を調査する。これにより、Non Seed CBD成膜でのおおよその設定pHを見積もる。 Non Seed CBD成膜ではまず、ガラス基板を使用して成膜条件を検討する。前駆体溶液としては、ヘキサフルオロガリウム酸アンモニウムとホウ酸を蒸留水に溶かし、ガリウムイオンが所定の濃度となるように水溶液を調製する。この溶液をNon-Seed CBD装置に送液し、酸化ガリウム膜を作製する。先の実験に基づいて溶液のpHを設定し、基板表面温度は60~90℃の範囲で変化させて30分成膜し、酸化ガリウム膜形成反応への影響を調査する。また、溶質濃度やホウ酸濃度変化させ、膜形成挙動を調査する。得られた薄膜は、X線回折により結晶相を同定し、走査型電子顕微鏡により表面形状と膜厚、紫外可視分光光度計により光透過率、X線光電子分光により表面化学状態を評価する。また、ホール測定装置およびインピーダンスアナライザにより電気特性を評価する。
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