研究課題/領域番号 |
21K04659
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
岡 研吾 近畿大学, 理工学部, 講師 (80602044)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 複合アニオン化合物 / フッ化物イオン / イオン伝導 / 層状化合物 / アパタイト / 構造相転移 / 負熱膨張 |
研究実績の概要 |
本研究では、リジッドな結晶骨格をもつ新しいフッ化物イオン伝導体の研究を行っている。2022年度は、加熱装置を導入し、最大で700 Kの温度まで加熱し、イオン伝導度を則的できる装置の立ち上げを行った。イオン伝導度のような、動的な性質を調べるためには、温度依存性を明らかにすることが不可欠である。これでイオン伝導度を評価できる環境を整えることができた。また、物質としては、アパタイト型化合物Pb5(VO4)3Fや、層状化合物Bi2VO5FとBi3SrO5Fに着目し研究を行った。アパタイト型化合物Pb5(VO4)3Fについては、構造解析の結果より、フッ化物イオンが結晶c軸方向に大きく変位し、遍歴しているような振る舞いを見いだすことに成功した。また、合わせてこの物質が低温でフッ化物イオンの結晶学的サイトが固定される常誘電-反強誘電転移に伴い、巨大な負熱膨張を発現することも発見した。この振る舞いもまた、結晶内でのフッ化物イオンのダイナミクスと密接に結びついていると考えられ、フッ化物イオンの結晶内での伝導は、伝導度のみならず構造的な特性にも特異的な変化をもたらす可能性があることが示唆された。層状化合物Bi2VO5FとBi3SrO5Fについては、試料を合成する際に、条件によって格子定数が大きく変化することがわかった。これは、結晶内に存在するフッ化物イオン量の違いを反映していると考えられる。Bi2VO5Fを合成する際に、フッ素源としてポリフッ化ビニリデンを加えて加熱処理をすると、再現性よく試料が合成できることがわかった。ポリフッ化ビニリデンを加えることで、フッ化物イオンの分圧を安定的に再現することが可能になったためであると考えられる。フッ化物イオンの不定比性は、高いイオン伝導性を示唆する結果であると考えられる。現在、合成条件を変えた試料を用いて、イオン伝導度と結晶構造の関係を調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究自体はおおむね順調に進展していると考えている。アパタイト型化合物Pb5(VO4)3Fや、層状化合物Bi2VO5FとBi3SrO5Fなど、フッ化物イオン伝導を示すと期待される候補物質の合成に成功しており、現在はそれらの結晶構造解析とイオン伝導度測定を主に行っている。ただし、現時点ではまだ構造解析や測定について課題がある。まず、フッ化物イオンの不定比性により、粉末回折で得られる結晶構造の情報から、アニオンの位置を正確に見積もることに困難がある。結晶構造中で、アニオンがある程度秩序配列しているのか、そうでないのかを明らかにするためには、19F 固体NMRなどの手法を用いた評価が不可欠であると考えている。また、イオン伝導度の測定についても、試料の焼結性など外因的な要素が伝導度の値に大きな影響を与える。再現性よく、正確なイオン伝導度の値を得るためには、試料合成の方法についても、検討をする必要がある。以上のように、候補物質も得られ、研究の方針自体は定まっているが、構造解析およびイオン伝導度測定にまだ課題が残っており、その点において、当初の計画以上の進展とはいえないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
アパタイト型化合物Pb5(VO4)3Fや、層状化合物Bi2VO5FとBi3SrO5Fなど、フッ化物イオン伝導を示すと期待される候補物質の合成に成功しており、それらの構造解析や物性測定の精度を上げていくことが今後の研究の推進方策である。放射光粉末X線回折や、放射光X線吸収測定などを組み合わせて、平均構造と局所構造という二つの観点から構造を明らかにしていくことができればと考えている。また、19F 固体NMRを用いて、直接的にフッ化物イオンの状態を観測することができれば、フッ化物イオンのダイナミクスについての重要な情報が得られると期待している。19F 固体NMRについては、国内の専門家の力を借り、研究者の所属している近畿大学共同利用センターが所有している装置を使った測定をできるように準備を進めている。19F 固体NMRをうまく活用することができれば、さらに研究の質が一段階上がると期待している。また、伝導度測定に使用する固体試料についても、焼結させる際の加熱条件や試料の表面研磨の方法を工夫することによって、より再現性高いデータが得られるように改善を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
固体NMRに使用するサンプルローターを購入しようとしたが、最近の物価高騰の影響を受けて、当初の計画よりも数を減らさざるを得なくなり、結果として差額が生じたため、それを次年度使用額として繰り越した。差額分については、当該年度の試薬代や器具代などの消耗品として使用する予定である。
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