研究課題/領域番号 |
21K04665
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松嶋 道也 大阪大学, 工学研究科, 助教 (90403154)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 導電性接着剤 / ウレタン改質エポキシ樹脂 / 応力緩和 / 電気抵抗上昇抑制 |
研究実績の概要 |
導電性接着剤は実装温度以上の耐熱性を持つ鉛フリーの実装材料であり,導電導通の役割を担う金属フィラーと接着性を示す有機材接着剤との複合体である.有機接着剤に多く用いられるエポキシ樹脂は,その硬く脆い性質から大きな変形に対しては応力集中によって剥離が生じる.また接着層のひずみにより,導通パスを担う金属フィラー間に距離が生じて電気抵抗率が上昇する. 多くのエポキシ樹脂の強靭化と低応力化の研究では耐熱性や接着強度が大幅に低下し,電子部品の動作環境に適さないという欠点があったが,ポリウレタン改質エポキシ樹脂(以下PU改質樹脂)では,耐熱性を損なわず,エポキシ樹脂と同等の接着強度が達成できる. 本年度は,ポリウレタン改質をエポキシ樹脂ベースの導電性接着剤に適用し,5種類のポリオールを材料とするPU改質樹脂の微細構造,機械的特性,および電気的特性を比較した.エポキシ樹脂およびPU改質樹脂とCu基板との接着強度-破断伸び特性を評価し,構成材料によって異なるが一定の改質率で強度と破断伸び両方の向上を示した.次に,低Agフィラー含有率のPU改質樹脂導電性接着剤では,エポキシ樹脂よりも良い接着特性を得たが,高Agフィラー含有率ではバインダ樹脂とフィラーの界面が増加し,樹脂/Ag接着強度が導電性接着剤の破壊に大きく寄与することが各バインダ樹脂とAgの接着強度測定結果から推測された.PU改質樹脂を導電性接着剤に使用した場合でも,従来と同程度の電気抵抗率が得られた.また一部のPU改質樹脂では,エポキシ樹脂を用いた接着剤なら1度で導通不良が生じる条件の1.6%曲げ歪みを5回繰り返し付与しても導通不良を生じず,断面においても樹脂破壊やフィラー剥離は観察されなかった. 以上により,応力緩和とひずみ発生時の電気抵抗率上昇の抑制に寄与することから,PU改質樹脂の導電性接着剤への適用が有効であることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エポキシ樹脂を5種類のポリオール化合物からそれぞれポリウレタン改質 を行い 導電性接着剤への適用効果を検討し,以下の結果を得た. 1.エポキシ樹脂中でポリウレタンを合成して作製したポリウレタン改質エポキシ樹脂の構造を FT-IRで解析した.それぞれの樹脂に由来するスペクトルが見られ ,それ以外に新たなスペクトが確認できないことから, 改質後も新たな相形成は生じず,エポキシ樹脂とポリウレタンが相溶している状態であることを明らかにした. 2.ポリレタンの改質によって引張せん断強度,破断伸び共に大きく向上し,引張せん断強度は,PU-PEG(ポリエチレングリコールを用いた改質樹脂)では改質率30%で,PU-PPG(ポリプロピレングリコールを用いた改質樹脂)では改質率20%で最大値を示し,破断伸びはPU-PEGでは改質率40%で,PU-PPGでは改質率20%で最大値を示した. 3.Ag20%では,PU-PPGを使用した導電性接着剤が,繰り返し試験5回目で最も小さな曲げ ひずみ で導通不良となった.一方,Ag50%では PU-PEGを使用した導電性接着剤が,繰り返し試験の5回目において曲げひずみ1.6%でも電気抵抗率の変化は小さく,他の樹脂とは異なり導通不良に至らず,大きな亀裂も見られなかった. 以上により,ポリウレタン改質エポキシ樹脂は接着特性,導電性接着剤への適用した際の変形時の電気抵抗率上昇の抑制に一定の効果があることが認められた.また,ポリエチレングリコールを使用したものが最大でエポキシ樹脂の1.4倍の接着強度と3.5倍の破断伸びを示したことなどから,次年度以降の研究を進める際に着目する材料の選定が行えた.
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今後の研究の推進方策 |
1.FT-IRによって材料が相溶している状態であることは確認できたが,微細構造としてどのような状態になっているのかは不明であるため,より微細な分析が行える装置の利用を検討している. 2.選定したウレタン改質エポキシ樹脂を用い,金属フィラー含有率ならびにセルロースナノファイバーの添加量とひずみ負荷に対する導電性低下の関係,金属フィラー表面処理状態の樹脂内部への分布への影響を評価する. 3.硝酸銀や酢酸銀などのイオン化金属を溶媒中に分散させてセルロースナノファイバーを添加し,80℃未満の低温で加熱して金属を析出させる.その際,CNFサイズやイオン化金属濃度の影響を明らかにして,最適な金属析出条件を求める. 4.表面清浄性の確保のため,プラズマ処理した電極付基板に対してAgペーストを塗布したサンプルで導電性を測定し,プロセスによって「イオン化金属添加」「CNF添加」「金属析出の有無」による導電性への影響を明らかにするとともに,微細構造の変化を観察する.
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