研究課題/領域番号 |
21K04677
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
伊藤 和博 大阪大学, 接合科学研究所, 教授 (60303856)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ガスメタルアーク溶接 / ダンデムトーチ / 溶込み形状 / 被溶接体正弦波振動 / 溶融池流体計算 / マランゴニ対流 / 実効入熱 |
研究実績の概要 |
ダンデムガスメタルアーク溶接(GMAW)での溶込み形状が、アーク直下が深い異方的なフィンガー形状から、被溶接体を正弦波振動させることで鍋底型に変化させられることを見出した。これまで、溶込み形状の周波数依存性を組織観察してきたが、市販Flow3Dソフトに溶接条件や物性、特に表面表力の温度依存性を独自に組み込んだサブルーチンにて入力することで再現計算し、被溶接体振動により実効入熱が低くなり、マランゴニ対流が溶込み形状に大きな影響を及ぼす溶融池温度域になったことが大きかったと考察した。今年度は、昨年に引続き、振動周波数の変化が実効入熱に与える影響を明らかにし、かつその変化が溶融池での熱と物質の流れにどのように影響を及ぼすかを再現計算した。振動有りでは振動無しと比較して実効入熱が低くなり、振動数の減少に伴い実効入熱が減少した。また、実効入熱の低さ故に、その溶融池温度ではマランゴニ対流による溶込み形状変化への影響(溶接止端部への熱と物質の流れ)が見られたが、それに加えて実効入熱の低減によるマランゴニ対流効果と物理的な振動効果の重畳が生じていた。計算で再現したHAZ部の溶融線に近い部分と遠い部分の2か所の温度変化履歴から最もその面積が小さくなる(被溶接部での入熱が低い)周波数を最適とすると、実験観察にて溶込み形状がより鍋底型に近くなる周波数と一致した。その250Hzが溶込み形状を鍋底型にしHAZをより薄く均一にする最適周波数と考えられた。これら結果を学会発表および論文投稿した。 タンデムトーチ配置と溶接方向に対して平行と垂直、振動方向も溶接方向に対して平行と垂直とした計4つの組合せにて、溶込み形状の振動数依存性を観察した結果については、残り1年にて学会発表や論文投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1、「溶込み形状変化に及ぼす正弦波振動の影響を可視化(CFD計算)」 独自サブルーチンを組み込んだ市販Flow3Dソフトを用いたタンデムGMAW再現計算にて50,450 Hzでの計算を昨年行った。振動無しと最適であるだろう250 Hzの結果と合わせて、ある時間での各場所での熱と物質の流れの違いを可視化(図示)した。本年度はアーク溶接が安定した時間(計算機での時間: 1.96 s)において各位置における熱と物質の流れを可視化し、各場所での溶融線から溶込み形状の形成をまとめた。振動有りでは振動無しと比較して実効入熱が低く、振動数の減少に伴い実効入熱が減少した。この溶融池の温度低下によりマランゴニ対流による溶融池中央部と止端部との中央にできる渦による下向きの熱と物質のながれがフィンガーから鍋底型への変化の要因である。それらは物理的な振動による溶融池の振動方向への伸長とも相関していた。以上はあまりに定性的過ぎるので、これらの総合効果として、計算で再現したHAZ部の溶接中の温度変化履歴を2か所で取得した。いずれの場所でも周波数依存性が観察され、250 Hzにて温度-時間関係の面積が最低となった。振動数低下による溶接時の実効入熱低下(アーク長を一定にするための実効入熱制御)と、振動数増加による溶融池の振動方向への伸長(振動の物理的影響)と重畳して、被溶接部へ実際の入熱は振動数に依存した単調変化でなく極値が生じており、溶込み形状がより鍋底型に変化するのがその極値を示す振動数と一致することが明らかとなった。 2、「タンデムトーチ配置と溶接方向との関係が与える影響」 昨年、タンデムトーチ配置と溶接方向に対して平行と垂直、振動方向も溶接方向に対して平行と垂直とした計4つの組合せにて観察した溶込み形状の振動数依存性を、今後は本年度成果の溶融池内の熱と物質の流れの振動数依存を基に、考察する。
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今後の研究の推進方策 |
ダンデムガスメタルアーク溶接(GMAW)にて、被溶接物にある特定周波数の正弦波で溶接中に振動を加えると、溶込み形状アーク直下の深い異方的なフィンガー形状から、鍋底型に変化する奇異な現象を発見して以来、その機構解明を続けてきた。その解明には溶融池内の熱と物質の流れを知る必要があり、数値流体力学による再現計算が最適と考え、市販Flow3Dソフトを用いた計算を行った。当初、溶込み形状を再現できず、被溶接物の物性をなるべく詳細に入力すること(独自サブルーチンの導入)、メッシュサイズを出来るだけ小さくすることに注力し(計算機の独自制作)、これまでの報告よりかなり長い計算機時間、つまりアーク溶接が安定した時間の溶融池を再現することができた。その過程で、溶融池温度域がマランゴニ対流の影響発現温度域になる実効入熱の低減が重要であったこと。また、本年度の追加解析により、振動の物理的影響として溶融池が振動方向に伸長することで熱と物質の流れにも影響していたことを明らかにした。これらにて、当初の本質的な疑問・課題は解決したと考えられる。今後、査読結果に基づいて論文を修正し当該成果が公表されるように努める。また、これら結果を基に、タンデムトーチ配置と溶接方向との組合せによる、溶込み形状の変化が考察できるか検討する。この被溶接材の特定周波数による振動は、実効入熱の低減と、振動による溶融池内の熱と物質の流れの物理的な振動方向への伸長を発現していた。溶接方向と振動方向が異なるとこのバランスが崩れるので、溶込み形状も変化すると考えられ、本年度の研究成果と整合するか検討し、溶融池内の熱と物質の流れの被溶接物振動による影響をより深く理解することを目指す。
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