本研究の目的は、カーボンナノチューブ(CNT)と樹脂から成るナノコンポジットの機械的特性の発現機構を界面の原子配置および電子状態に基づいて解明することである。材料全体の強度が生じる機構を、微視的な構造に基づいて明らかにすることによって、ナノコンポジットの材料設計指針を得る。強化材にCNT、母材にエポキシ樹脂 (ビスフェノールAジグリシジルエーテル; DGEBA) を用いたナノコンポジットをモデル化し、強化材/母材界面における構造の特徴および接着力について微視的な視点から評価を行った。 はじめに、第一原理計算を用いて界面における化学結合状態を調べた。CNTと樹脂は完全な状態では互いに化学結合を生じることなく、界面接着性が低いが、欠陥を介して樹脂と化学結合を生じることにより、CNT特有の高い剛性を維持しつつ、強い界面結合が実現できることがわかった。これには欠陥のダングリングボンドを樹脂分子によって過不足なく終端することが重要であることを明らかにした。 また、分子動力学法を用いて多数の樹脂分子とCNTの界面構造の解析を行った。CNTの周りに樹脂が分散した構造を、モデルを高温にしたのち、適切な温度プロファイルの下で冷却する方法(メルトアンドクエンチ法)によって再現し、界面近傍の構造の特徴を調べた。多数のDGEBA分子が多数の時間ステップの下で計上を変化させることから、時々刻々現れる構造は多様であるが、その構造を分類するため、k近傍法に基づく機械学習手法による分類を行った。その結果、CNTとDGEBAの距離によって、DGEBAのCNTに対する配向方向や、両端のエポキシ基の向きなどが変化することが明らかとなった。 以上の通り、第一原理計算、分子動力学手法、機械学習の異なる手法を効果的に組み合わせることにより、ナノコンポジットにおける構造の特徴および接着力について有効な知見を得ることができた。
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