研究課題/領域番号 |
21K04680
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
遠山 岳史 日本大学, 理工学部, 教授 (40318366)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 噴霧乾燥法 / 中空粒子 / 酸化亜鉛 / シリカ / テトラエトキシシラン |
研究実績の概要 |
ZnOの製造は乾式法により行われているが,粉体の機能性の向上のためには形態制御可能な液相法が有効である.しかし,ZnOの溶解度は低く形態制御は困難である.そこで,本研究ではZnO懸濁液にCO2ガスを吹き込む単純なプロセスによりZnOを溶解させ,さらにシリカ分を添加した混合水溶液を噴霧乾燥することにより,外殻にZnO層,内部に保持層としてSiO2層を組成傾斜させた球状中空粒子の作製を目的としている. 令和3年度(初年度)はZnO懸濁液にCO2を吹き込むことで最大約1.0 g/dm3(ZnO換算)の溶液を調製することに成功した.そこで,この方法で得られた高濃度Zn2+水溶液にケイ酸カリウム水溶液をSiO2/ZnO重量比0~1となるよう添加し,これを噴霧溶液とした.得られた混合水溶液を噴霧乾燥温度40~120℃,噴霧圧力200 kPaで噴霧乾燥を行ったところ,1~4μmの球状中空粒子を得ることができた.しかしながら,中空壁のEDX分析からSiとZnは均一に存在しており組成傾斜は認められなかった. 令和4年度は前年度に得られた粒子の紫外線吸収能について評価した.得られたZnO球状中空粒子はおおよそ400 nm以下の紫外線を吸収しているのが確認できたが,SiO/ZnO重量比の増加に伴い紫外領域での吸収能は低下する傾向がみられ,ケイ酸亜鉛の生成がみられた重量比1では紫外線吸収能を示さなかった.また,光触媒活性についてメチレンブルー分解により評価を行ったところ,SiO2/ZnO重量比重量比の増加に伴い活性も低下することが分かった.以上の結果から,SiO2/ZnO重量比0.5において光触媒活性の低い紫外線吸収粉末の作製が可能であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ここまでの研究成果として,1)CO2吹き込み法による高濃度Zn2+水溶液の調製法の確立,2)噴霧乾燥法によるZnO球状中空粒子の作製,3)ZnO/SiO2系複合中空粒子の作製法,について明らかにしている.さらに,4)ZnO/SiO2系複合中空粒子の強度試験,5)紫外線(UV)吸収特性なども明らかにしており,当初の計画通りに進んでいると言える. しかしながら,ZnO/SiO2系複合中空粒子の構造は学術的な目標である「組成傾斜型」粒子とはなっておらず,当初の予定とは異なる状況にある.このため,ケイ素源(一部ゲルマン酸も検討)などを変化させることによる組成傾斜型粒子の創生について引き続き検討を行っている状況である.それゆえ,工業的にはほぼ完成に近い状況にはあるが,学術的には新しい知見が少なく,学会発表および論文化が遅れている. 以上を総合的に判断して,現在までの進捗状況の評価は「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
昨年までの研究において,紫外線吸収能を有するZnO/SiO2系複合中空粒子の作製条件までは明らかにしている.このため,当初の計画通り令和5年度は化粧品粉体としての評価を行うため,摩擦感テスターを用い粒径および組成(SiO2含有率=粒子強度)と塗布特性の関係を明らかにする予定である. また,現在のZnO/SiO2系複合中空粒子はSi添加量が少ない場合にはZnOとSiO2系ナノ粒子がほぼ均一した混合物であり,それぞれの成分の析出のタイミングがほぼ同時であることから組成傾斜型粒子が得られていない.このため,粒子表面に紫外線吸収能の無いSiO2が存在することで,試薬ZnO粒子と比較して紫外線の吸収効率が低下している.そこで,SiO2を内部に析出させるため異なるケイ素源を用いた検討を行う予定である.昨年度までにテトラエトキシシラン(TEOS)を用いた噴霧溶液の調製法を確立したため,令和5年度はTEOSを用いたZnO/SiO2系組成傾斜型粒子の創生を目指す.また,SiO2系で目的通りの結果が得られなかった場合には,溶解度を高めるために周期表のSiの一つ下に位置するGeを用いたZnO/GeO2系球状複合粒子にも挑戦し,本研究の学術的な目標である組成傾斜型粒子の作製を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では紫外線吸収能を評価するための装置,測定部品等を購入することを計画していたが,学科共通機器として新規で紫外吸光装置が導入され,使用できるようになったため当初の計画よりも支出が少なくなったため.なお,次年度に繰り越される5,904円については,経年劣化した噴霧乾燥装置の消耗部品(送液チューブなど)に使用し,高い装置稼働率を維持して研究を順調に遂行できるようにする予定である.
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