本研究は、漆塗料の機能開発において最重要課題のひとつである漆塗料への「紫外線劣化抑制機能の付与」を目的として、全工程を「紫外線吸収ナノ粒子の漆塗膜への均一分散法の確立」、「紫外線吸収ナノ粒子による構造色発現を利用した塗装法の開発」、「バイオナノファイバーを骨材とするナノコンポジット乾漆の創製」の3つの区分に分割し、各区分の目標の実現を通して本研究の目的を達成する。 令和5年度は、「紫外線吸収ナノ粒子の漆塗膜への均一分散法の確立」分野では、新規紫外線吸収剤として開発を進めている表面コートTiO2光触媒ナノ粒子について、ナノ粒子表面にチオール基を導入した表面機能化TiO2光触媒ナノ粒子を調製した。「紫外線吸収ナノ粒子による構造色発現を利用した塗装法の開発」分野では、金ナノ粒子とポリマーの混合割合によって金ナノ粒子の集合状態が変化することを見出し、青色の構造色が発現する金ナノ粒子の添加量を明らかにした。「バイオナノファイバーを骨材とするナノコンポジット乾漆の創製」分野では、骨材となるバイオナノファイバーとして、ポリドーパミン修飾したセルロースナノファイバーとゼラチンとの複合クライオゲルを作製した。 研究期間全体を通じて、「紫外線吸収ナノ粒子の漆塗膜への均一分散法の確立」分野では、ウルシオールとの結合性置換基を表面に備えた紫外線吸収特性を有するダブルシェル型TiO2ナノ粒子を作製した。「紫外線吸収ナノ粒子による構造色発現を利用した塗装法の開発」では、ナノ粒子/ポリマー複合系での構造色制御について検討し、構造色を発現するナノ粒子とポリマーの混合割合を見出した。「バイオナノファイバーを骨材とするナノコンポジット乾漆の創製」分野では、漆液との親和性向上を指向したバイオナノファイバーを主体とする複合ヒドロゲルおよびクライオゲルの作製に成功した。
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