研究実績の概要 |
本年度は,アンカー型分散剤の分子構造と単層カーボンナノチューブ (SWCNT) の直径選択性との相関関係と,分散剤の構造がナノチューブの分散安定性に及ぼす影響を明らかにした。 分散剤の分子構造とナノチューブの選択性については,フォトルミネッセンス励起スペクトル測定より,分散によって選別した SWCNT のキラリティ (n,m) を同定した。その結果,(9,4),(7,6) SWCNT が選別したナノチューブの 90 % を占め,これらのナノチューブの直径はおよそ 0.9 nm であった。また SWCNT の直径と roll-up angle との関係を調べたところ,アンカー型分散剤はナノチューブの直径を認識し分散に寄与することがわかった。 分散剤の構造がナノチューブの分散安定性に及ぼす影響については,分子動力学シミュレーションを用いて考察した。分散剤と SWCNT 間の自由エネルギーの最小値は0.65 nm付近で,2.0 nm 以上の距離ではほぼ一定となった。つまり,分散剤は 0.65 nm付近で最も強く SWCNT と結合し,2.0 nm 以上では空間的に分離していることがわかった。また,2.0 nmでの自由エネルギー値と 0.65 nmでの自由エネルギー値との差を結合自由エネルギー(ΔG) とし,アンカー型分散剤と異なるキラリティの SWCNT との ΔG を比較した。良好な認識を示す (9,4) SWCNT (直径: 0.92 nm) のΔG 値は 171 kJ/mol であるのに対し,ほぼ認識しない (8,6) SWCNT (直径: 0.97 nm) のΔG値は 84 kJ/mol であった。以上の結果より,大きな ΔG の差をもたらしたのは,アンカー型分散剤が SWCNT の直径に対して鋭敏な認識を示すためと考えた。
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