本年度は,単層カーボンナノチューブ (SWCNT),グラフェンなどの炭素ナノ材料と白金ナノ粒子 (PtNP) との複合化に成功し,この複合体が水電解水素発生触媒として機能することを明らかにした。 材料探索の過程で合成した側鎖にチオール基を有する高分子化合物が,SWCNT を水中で分散し,PtNP (平均粒径: 3.2 nm) と白金ー硫黄結合を介して化学的に担持できることがわかった。得られたPtNP/SWCNT 複合体をプロトン透過膜 (PEM) 電解槽の陰極に用い,水電解による水素発生挙動を検討した。その結果,PtNP の担持量が極微量 (15 μg/cm2) であるにもかかわらず,ファラデー効率が 97 % であり,150 時間連続で水素を発生する高効率触媒であることが明らかとなった。 液中プラズマ法を用いて合成した PtNP (平均粒径: 1.8 nm) が,炭素ナノ材料の表面に共有結合官能基化によって付着し,複合化することを発見した。得られた PtNP/炭素ナノ材料複合体は水中に分散し,スプレーコートによる成膜が可能であった。PEM 電解槽の陰極として成膜した複合体の水電解水素発生挙動を調べたところ,PtNP/SWCNT 複合体は,市販の水素発生触媒である 白金/炭素 (Pt/C) に比べ,およそ 1/500 の Pt 担持量 (6 μg/cm2) で水素を発生することがわかった。また,この複合体の質量活性 (PtNP 担持量に対する電流値) は 89300 A/g であり,Pt/C (324 A/g) の 270 倍以上であった。 研究期間全体を通じて,SWCNT を分散するアンカー型分散剤の開発に成功し,SWCNT の直径選択性と分散安定性に及ぼす影響を解明することができた。また,材料探索の過程で炭素ナノ材料と PtNP を複合化し分散する手法を発見し,水素発生触媒として機能することを見いだした。これらの結果は,炭素ナノ材料を用いたエネルギー変換材料を開発する上で重要な知見を含んでおり,新たな機能性分散剤の開発が期待できる。
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