研究課題/領域番号 |
21K04683
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研究機関 | 地方独立行政法人京都市産業技術研究所 |
研究代表者 |
小濱 和之 地方独立行政法人京都市産業技術研究所, 京都市産業技術研究所, 次席研究員 (00710287)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 低温接合 / 高温強度 / 接合機構 / 物質移動 / 相変態 |
研究実績の概要 |
セラミックスの低温接合と接合体の高温使用を両立するため,接合時には低い温度で融け,接合後には高い温度でも融けなくなるという,新機能を有したフィラー(接合時に間に挟み込む材料)の開発研究を行っている。その機能の根源は,フィラーに含まれる添加元素の蒸発や化学反応を利用して,フィラーの融点を制御する点にある。一方で,このような添加元素の特殊な振る舞いが十分に理解されていないため,接合界面に出現する気体・液体・固体が関与する複雑な接合機構(ダイナミクス)が明らかになっていない。本研究では,そのダイナミクスに関する知見を体系化することで,プロセス設計の指導原理の確立をめざしている。 令和3年度は,これまでの研究で上記の新機能を実証済みのSi-Mg複合フィラーを用い,各種セラミックスの接合を実施した。この系では約950℃以上でSi-Mg共融液相が生成するため,液相を介した接合に供することができる。一方,Mgは蒸気圧が非常に高いため,接合温度での保持中にMgが液相中から蒸発し,残ったSiがその温度で等温凝固することで,固相Si主体の接合部が形成される。このような接合機構についての速度論的知見を得るため,接合温度を変化させて接合し,得られた接合体の接合部の微細組織や元素分布を調査した。その結果,いずれの接合部にもMgの一部が残留しており,その組成は接合温度によらずほぼ同じであった。この結果は,Mgの蒸発速度それ自体は十分速く,律速過程ではないことを示している。接合部において,液相が固相に取り囲まれて孤立することにより,物質移動経路がなくなり,接合部にMgが残留するという機序が考えられる。接合強度が接合部のMgの存在形態に依存する可能性も見出した。これらの手がかりに基づき,Mg蒸発の促進(物質移動経路の確保)および接合強度向上のためのフィラー設計指針の考察を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,特定のセラミックスとフィラーの組み合わせに着目し,接合温度を変化させた接合体を作製し,接合部の微細組織や元素分布などを定量的かつ系統的に調査した。これらの実験から,上記概要に記載のように,フィラー中の添加元素の蒸発について速度論的に理解するための手がかりを得た。また,蒸発だけでなく,プロセスを支配し得る素過程(物質移動,化学反応など)の影響を考慮しながら,セラミックスの種類やフィラーの組成を変化させるなど,計画を先取りした踏み込んだ実験にも取り組み,接合機構についての考察を深めた。並行して,得られた接合体の室温および高温での接合強度についても調査し,接合部微細組織と接合強度との関係についての知見を集めた。これらの結果を総合することで,高耐熱接合の達成に向け,添加元素蒸発の促進(物質移動経路の確保)および接合強度向上のためのフィラー設計指針についての考察を一定程度進めることができた。ろう付の専門誌に解説記事を寄稿するなどのアウトリーチ活動にもつながった。一方で,原著論文などによる成果発表のためには,再現性の確認や接合機構の詳細な考察などが不足している部分があり,今後の課題とした。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画に沿って,セラミックスの種類やフィラーの組成などをさらに変化させ,種々の接合温度と時間にて接合体を作製し,接合部の微細組織観察や元素分析などにより,接合機構の重要な支配因子を考察していく。例えばプロセスの見かけの活性化エネルギーや頻度因子の値が変化することなどが考えられる。特に,令和3年度の考察により得たフィラー設計指針に基づいてフィラー組成などを検討し,実際に添加元素の蒸発(物質移動経路の確保)が促進されるか実証実験を進めることなどにより,計画を遂行していく。これと並行して,実用上の重要な特性である機械的強度や耐熱性を高温曲げ試験により評価し,プロセス設計指針の確立につなげていく。必要に応じて,接合機構の全体的かつ直接的な理解の助けとするため,透明セラミックスを接合することなどにより,接合体内部を透視できるよう検討も進める。それらの実験結果の確度を高め,学会発表・論文投稿につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究を遂行するにあたり,種々の接合条件にてセラミックス接合体を作製し,その断面観察などを実施した。その中の一部の条件では,接合強度が非常に低い接合体を切断して断面観察試料を作製する必要があるなど,実験技術上の困難を伴うことが判明し,試験片作製方法の確立などの試行錯誤に時間を要した。そのため,その後の工程である観察や分析等に使用した費用が当初計画より減ったため,次年度への繰り越しの助成金が発生した。また,再現性の確認や接合機構の詳細な考察などが不足している部分があり,学会発表や論文発表には至らず,その経費も使用しなかった。実験が順調に実施できるようになった後には概ね当初の計画を遂行できるようになったため,次年度は,セラミックスの種類やフィラーの組成などをさらに変化させて接合体を作製し,接合部の微細組織観察や元素分析などにより,接合機構の重要な支配因子を明らかにする。そのための観察や分析等にかかる消耗品等の費用を使用する。また,実用上の重要な特性である機械的強度や耐熱性・耐酸化性を評価するための費用も使用する。それらの実験結果の確度を高め,学会発表・論文投稿するなど,成果発表の費用も使用する計画である。
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