セラミックスの低温接合と接合体の高温使用を両立するため、接合時には低い温度で融け、接合後には高い温度でも融けなくなるという、新機能を有したフィラー(接合時に間に挟み込む材料)の開発研究を行っている。その機能の根源は、フィラーに含まれる添加元素の蒸発や化学反応を利用して、フィラーの融点を制御する点にある。一方、このような添加元素の特殊な振る舞いが十分に理解されていないため、接合界面に出現する気体・液体・固体が関与する複雑な接合機構(ダイナミクス)が明らかになっていない。本研究では、これまでに開発したSi-Mg複合フィラーを用いて、そのダイナミクスに関する知見の体系化とプロセス設計の指導原理の確立をめざした。 令和5年度は前年度に引き続き、本フィラーを用いた炭化ケイ素の接合が困難である理由の考察とその改善に取り組んだ。接合部に生成したSi-Mg液相中で、Mgが蒸発しやすい試料外周部に近い箇所で優先的に固相Si形成が生じた結果、中央部の液相が外周部近傍の固相Siに取り囲まれて孤立し、その残存液相中のMgが外部に蒸発できなくなったと結論付けた。その解決策として、Alを添加した3元系フィラーにより系の熱力学的自由度を1増加させ、固相Siの形成を均一化することで、中央部での液相の孤立を抑制し、Mg蒸発を促進できた。フィラーのMgとAlの初期組成を調整することで接合体の高温強度が増大することも示した。 一連の研究により、主要なセラミックスであるアルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素のいずれでも本原理が適用可能であることを示した。一方で、セラミックスの材質の違いに起因する接合機構の差異があり、必要に応じてMg蒸発を促進する必要があることがわかった。炭化ケイ素接合の場合の工夫の一つがAl添加によるMg蒸発経路の確保である。このように各種セラミックスを接合する際のフィラー設計指針を得ることができた。
|