研究課題/領域番号 |
21K04684
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
迫村 勝 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 講師 (20235237)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ペロブスカイト型太陽電池 / 光エネルギー変換 / 自己組織化膜 / 表面電位 / 走査プローブ法 |
研究実績の概要 |
令和3年度は本研究課題の初年度であり、ペロブスカイト型太陽電池のアノード電極上への自己組織化膜(SAM)及びペロブスカイト膜の形成条件の検討をそれぞれ行った。 ペロブスカイト型太陽電池のアノード電極としてITO透明電極を用い、末端基にNH2を有するシラン化合物、3-(2-Aminoethylamino)propyltrimethoxysilaneを含む溶液中にITO電極を浸漬することでSAM膜の形成を行った。SAM膜の形成状態は走査型ケルビンプローブフォース顕微鏡(KFM)を用いた表面電位観測により間接的に評価を行った。表面電位変化をモニターすることで溶液濃度と浸漬時間の最適化を行い、表面修飾が飽和に達した際のSAM修飾ITO電極の仕事関数は約4.37 eVと見積もられた。続いて、SAM修飾ITO表面に対してヨウ化水素酸による処理を行い、再度KFM測定を行ったところ、SAM修飾ITOの仕事関数は、4.64 eVに増加した。これはNH2基がプロトン化したことによる分子内ダイポールの変化とも一致するため、本研究での狙い通りSAM末端はNH3+へと変化していることが示唆された。 このようにして得られたSAM修飾ITO上にペロブスカイト膜を形成し、原子間力顕微鏡(AFM)による観測を行ったところ、NH3+末端によるSAM上ではペロブスカイトの結晶構造が著しく不均一になることがわかった。この理由としては、SAM末端のNH3+とペロブスカイトとの間で強い相互作用が働いた結果、ペロブスカイトの結晶状態に大きな変化が生じてしまったことが考えられる。現状では良好な結晶状態は得られていないが、SAM末端基との相互作用でペロブスカイト層を電極にアンカーし安定化するという本テーマの目的には合致した結果であると考えてよい。今後は結晶状態を改善するためペロブスカイト膜の成膜条件の検討を引き続き行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ITO電極上にNH2末端を有するSAM膜を形成し、よう化水素酸処理を行うことでプロトン化を行いペロブスカイト膜との相互作用を高め、SAM分子鎖によりペロブスカイト膜を電極にアンカーした構造を得ようというところまでは、本研究の計画を順調に前進させることができた。ただしSAMとペロブスカイト膜の界面における強い相互作用による負の影響からペロブスカイト結晶の形成状態が変化し、ペロブスカイト型太陽電池に適した構造が得られなくなってしまった。SAM末端をプロトン化せずにペロブスカイト膜を形成した場合は、ペロブスカイト結晶の良好な結晶粒の状態が観測されていることから、プロトン化した末端基が直接的な影響を及ぼしていることは明らかである。従って、プロトン化した末端基が整列した表面上でのペロブスカイト結晶の成長を制御するための条件の探索が新たな課題として浮かび上がってきた。このように初期段階としては順調に研究計画は進展してきたと言えるが、ここで出てきた新たな課題に向けて今後のさらなる検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画の初期の段階として、末端基にNH3+を有するSAM修飾ITO表面の調製については、計画通りに達成できた。次の段階としてはこのようなSAM修飾ITO表面上でのペロブスカイト結晶の成長を制御し、デバイス化に適したペロブスカイト膜を得るための膜形成条件の検討を行っていく。 ペロブスカイト膜はAFMで観測した際にある程度一定の大きさの均一な結晶粒が形成されているか否かで、効率の良い太陽電池として使用できるかどうかが判断可能である。まずは均一な結晶粒が観測できるようにペロブスカイト膜をスピンコート形成する際の溶液の濃度、温度、溶媒等の条件や、スピンコート後のアニール条件について検討を行う。 一方、ここまでの研究でSAM末端基をプロトン化した際にアノード仕事関数に増加が見られたことも注目すべき結果であったと言える。アノード仕事関数の増加は電極界面の正孔輸送を促進する効果があるため、これをさらに増大させるためのSAM表面の調製条件についても今後、さらなる検討を行っていく予定である。
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