研究課題/領域番号 |
21K04686
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
藤田 聡 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (60504652)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | エレクトロスピニング / セルロースナノファイバー / ナノファイバー / ポリエチレンオキシド / 配向性 / 生分解性 |
研究実績の概要 |
セルロースナノファイバー(CNF)は次世代材料として期待されているが,疎水性の高い高分子樹脂中ではうまく配向を制御させることが困難であり,産業利用の障害となっている。そこで本研究では,エレクトロスピニング法を用いたボトムアップアプローチによるCNFの精密配向・集積化技術を提案する。本技術は生分解性薄層プラスチックシートの開発につながり,石油社会から持続的社会への転換に向けた革新的な産業技術となりうる。本年度はまず,エレクトロスピニング法を利用して,基材となるポリエチレンオキシド(PEO)中にCNFを繊維軸方向に精密に配向させて包埋し,PEOナノファイバー芯部にCNFを封入することでCNFのバンドル化を促進することを検討した。PEO水溶液中にCNF水懸濁液を混合し,エレクトロスピニングをおこなうことで,CNFを5~20%含むPEO/CNFナノファイバーシートを作成することに成功した。作成したPEO/CNFナノファイバーシートの引張試験の結果,わずかなCNF添加量でPEOナノファイバーの機械的強度が著しく向上することが示された。またFTIR,DSC測定からは,内部に包埋されたCNF同士の相互作用が示された。これよりシートの強度の向上はCNFのバンドル化の寄与と考えられた。またTEM観察からも,CNF/PEO微細繊維の軸方向に沿ってバンドル化したCNFが伸展して存在していることがわかった。以上より,エレクトロスピニング法を用いることで,PEO微細繊維内部でCNFを配向・集積化できることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の実施計画は,1.CNF紡糸条件の検討,2・CNFの配向性・高次構造形成に関する検討であり,計画通り実施できた。 1.曳糸性が良好なPEOの水溶液とCNF水懸濁液に混合し,紡糸性を向上させてエレクトロスピニングを行うことでCNF繊維束を得ることを試み,得られた材料の特性を評価した。作成したファイバーには重量比で5~20%のCNFが含まれていた。調製した懸濁液を高速回転(1.26m/s)するコレクタ上にエレクトロスピニングすることで,CNF/PEO微細繊維が一方向に配向したシート(CNF/PEOシート)を得ることに成功した。 2.作成したCNF/PEOシートについて,SEM,引張試験機,ATR-FTIR,DSC,TEMを用いて,形態,機械的特性,分子の集合状態,内部構造の評価を行った。引張試験において,CNF含有量が増加するにつれて,破断伸びの変化は見られなかった一方で,弾性率および引張強度はともに向上した。これは,破断はCNFのないPEO部分で生じていることを示していた。またFTIR,DSCからCNF同士の相互作用も示され,シートの強度の向上はCNFのバンドル化の寄与と考えられた。比較のため作製したキャスト膜に比べ,シートはCNF添加による弾性率・引張強度の向上が大きかった。これは,CNFの配向による効果であると考えられた。TEM観察結果より,CNF/PEO微細繊維の軸方向に沿ってバンドル化したCNFが伸展して存在していることがわかった。これより,エレクトロスピニングを用いることで,PEO微細繊維内部でCNFを配向・集積化できることが示された。 また当初の予定では,次年度(2022年度)にCNFプリプレグの作製条件の検討を計画している。本年度は前倒しで検討をおこない,生分解性ポリエステルとCNFの組み合わせでナノファイバーが得られることも見出した。
|
今後の研究の推進方策 |
生分解性ポリエステルで作成したCNFを用いて,不織布シートならびにそれらを積層化したシートを作成する。作成した繊維およびシート内部でのCNFの凝集状態についても評価をおこない,CNF高集積化とその効果を実証する。本研究で用いたCNFとPHBHはどちらもバイオマス由来かつ生分解性を持ち,両者からなるCNF/PHBHファイバーは,自然から生まれ,自然に還る,完全なバイオプラスチックとして石油社会からの脱却と海洋プラスチック問題の解決に大きく貢献しうると期待される。これを実証するために,海洋分解性を含む生分解性評価をおこなう。
|