多結晶組織の粒界を一つの相とみなしてギブスエネルギーを設定する粒界相モデルに基づき、多成分系合金における溶質原子の粒界組成予測手法を開発した。粒界相のギブスエネルギーとして液相のギブスエネルギーを代用した。計算状態図の熱力学データベースを用いることで、ニッケル基合金、オーステナイト系ステンレス鋼、ハイエントロピー合金の粒界組成の予測値が実験値と一致することを確認した。 オーステナイト系ステンレス鋼(type 316L steel)における粒界偏析元素(Mo、P、B、C)の粒界組成の結晶粒径依存性を解析した。結晶粒径3~6μmの条件ではMo、B、Pの粒界組成がわずかに減少し、結晶粒径1μmの条件ではB、Pの粒界組成が大きく減少することが明らかとなった。この結果は、結晶粒径10μm以下の条件では、粒界組成予測において粒界体積率を考慮する必要があることを示唆している。 760℃における1000 hクリープ破断強度データが入手可能な32種類の多結晶ニッケル基合金について、760℃における粒界組成を予測した。粒内組成、粒界組成、析出強化相の体積率を説明変数、クリープ破断強度を目的変数としてLasso回帰を行った結果、粒界組成を説明変数に用いることでクリープ破断強度の予測精度が向上することが示された。また、回帰係数の値から、Bの粒界偏析がクリープ破断強度の向上に有効であることが示された。 粒界相モデルに基づき、多成分系合金における移動粒界の組成予測手法を開発した。粒界相のギブスエネルギーとして液相のギブスエネルギーを代用し、フェーズフィールド法により、一定速度で移動する粒界近傍の定常濃度プロファイルを解析した。マグネシウム合金における移動粒界の組成を解析した結果、溶質元素のZnとCaにはそれぞれの粒界偏析を相互に促進してソリュートドラッグ効果を高める役割があることが明らかとなった。
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