研究課題/領域番号 |
21K04699
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研究機関 | 帝京科学大学 |
研究代表者 |
石田 良仁 帝京科学大学, 総合教育センター, 講師 (90635137)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ゴム / 光分解 / 架橋 / マイクロプラスチック / 高分子化学 |
研究実績の概要 |
ゴムなどの架橋性高分子は、高分子鎖同士をつなぐ架橋構造に基づく優れた耐久性を有する。そのため、自然環境における分解やリサイクルは困難である。そのため、このような高分子材料によるマイクロプラスチック問題をはじめとした環境問題を解決するためには、社会的な仕組みではなく、材料方面からのアプローチが必須となる。本研究課題では、ゴム材料の架橋点にあらかじめ化学増幅(連鎖反応)型の光分解機構を組みこむことで、優れた物性と易分解性を両立した新規ゴム材料の合成を目指している。 これまで本研究課題では、光分解性架橋剤および光分解性ゴムの一般的な合成法の確立を達成している。それを踏まえて、昨年度は光分解性架橋剤を導入したポリウレタンゴムと一般的な架橋剤を導入したポリウレタンゴムとの熱機械的性質、及び光分解性の比較を行った。 すべてのゴムは高分子ジオールとジイソシアネートを用いたプレポリマー法により合成し、その際、架橋剤の種類が異なる以外はすべて同条件で実施した。 得られたゴムの引張試験を行ったところ、同じ種類および分子量の高分子ジオールを用いたゴムにおいて、架橋剤の違いによる応力ひずみ曲線に違いは見られなかった。また熱機械分析(TMA)においても、ガラス転移温度の差は10℃以内であった。これは、架橋ゴムの物性が架橋密度と高分子鎖の物性に依存するためである。一方で、THF中に分散したゴムに対して紫外線(365 nm)を照射し、ゴムの光分解性を調べたところ、一部の光分解性ゴムにおいて、ゴムが分解しTHFに溶解するまでの時間が有意に短くなった。 上記の結果から、光分解性架橋剤を導入したゴムは、当初の目的通り従来の架橋ゴムと同等の物性と光による易分解性とを併せ持つ、低環境負荷な新規ゴム材料であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の開始当初の研究実施計画では、昨年度までに光分解性架橋剤を導入したゴム材料の基礎的な性質を明らかにすることを計画している。 昨年度は光分解性架橋剤を導入したさまざまな種類のポリウレタンゴムを合成し、その熱機械的性質と光分解性について明らかにし、従来のゴム材料との比較を行った。その結果、本研究で合成した新規ゴム材料は、当初の目的通り優れた物性と易分解性を併せ持つことが示された。 これらのことから、本研究は当初の研究実施計画に従い順調に進捗しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
光分解性架橋剤を導入したポリウレタンゴムと一般的な架橋剤を導入したポリウレタンゴムの光分解性について検討を行ったところ、一般的な架橋剤を導入したゴムについても光分解性が見られた。これはゴムを構成するウレタン結合の光分解反応によるものと予想される。つまり、光分解性架橋剤を導入したポリウレタンゴムにおいては、架橋剤の光分解とウレタン結合の光分解が同時に進行していることが示唆される。 そこで、今年度の研究では、架橋剤の違いによるゴムの分解時間の差がより大きくなる条件について検討を行う。昨年度の研究では、架橋密度の低いゴムほど分解時間の差が大きかったため、今年度はより架橋密度の小さなゴムを合成し、その分解性について検討を行う。また、光により分解しない高分子主鎖を用いることで、ゴムの分解性の差がより大きなゴム材料が得られることが見込まれる。そのため、今年度はシリコーンなどの光分解性を持たない高分子主鎖を用いた光分解性ゴムについても検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度末の時点で昨年度分の研究遂行に必要な試薬・器具類が揃っている状態であった。一方で、ゴム合成に必要な試薬の一部(ポリプロピレングリコール等) は水分が混入しやすく、水分がゴム合成に悪影響を与えるため試薬の長期保存は望ましくない。そのためこれらの試薬については昨年度の購入を見送り、今年度の試薬購入に充てることとした。
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