本研究は、ゴム材料の架橋点に光分解性を付与することで、優れた物性と易分解性を両立した新規ゴム材料を合成し、その基本的な物性を明らかにすることを目的としている。これまでに本研究では、光分解性架橋剤および光分解性ゴムの合成法を確立した。また、光分解性架橋剤を導入したポリウレタンゴムと分解性のない架橋剤を用いたポリウレタンゴムでは、熱機械的性質に大きな差は見られないことを明らかにした。光分解性の比較においては、一部のゴムがTHF中で分解して溶解するまでの時間が有意に短くなった。しかし、主鎖のウレタン結合自体に光分解性があるため、架橋剤と主鎖の光分解が競争的に起こり、ゴムの分解に架橋剤がどの程度寄与しているかについては明らかにならなった。 そこで、今年度は光分解性架橋剤を導入したアクリルゴムを合成し、その光分解性について検討を行った。ウレタンゴムとは異なりアクリルゴムの主鎖は光分解性が低いため、アクリルゴムの分解は即ち架橋剤の分解を示すものとなる。 2つのアクリレート基を有する光分解性架橋剤を新規に合成し、これとエチルアクリレートと共重合することで、光分解性の架橋点を持つアクリルゴムを合成した。得られたゴムをTHF中に分散して紫外線(365 nm)を照射したところ、96時間後にTHFにゴムが溶解し、分解されたことが分かった。一方で、光分解性を持たない架橋剤を用いたゴムについては変化が見られなかった。2つのゴムの違いは架橋点のみであることから、分解は光分解性の架橋点にもとづくものだと明らかになった。 これらの結果から、当初の目的通り、光分解性架橋剤を用いることでゴムの優れた物性を維持しつつ光分解性を付与することを達成した。今後は光以外にも酸などのさまざまな分解性をゴムに付与することで、現在問題となっているマイクロプラスチック問題の解決に貢献できると考えられる。
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