リチウムイオン電池の高エネルギー密度化のために、従来の有機溶媒系電解液に替わり得る固体電解質の開発が強く望まれている。本課題ではクロソ型錯イオンを有する水素化物を対象として固体電解質としての開発に取り組んでいる。これらの水素化物はいずれも構造相転移に伴って超イオン伝導を示すものの、構造相転移温度以下での非超イオン伝導相ではイオン伝導率が極端に低いため、構造相転移温度以下でのイオン伝導特性を改善することが課題となる。それに対して、水素化物中の水素量を制御することで構造相転移温度を低下させる、あるいは非超イオン伝導相のイオン伝導特性を向上できないか検討を行ってきた。2021-2022年度の2年間で、部分的に脱水素化した試料が合成可能であること、構造相転移温度が低下すること、非超イオン伝導相のイオン伝導特性を向上すること、などを明らかにした。2023年度に得られた主な結果は以下の通りである。 (1) 従来用いてきたインピーダンス測定システムでは160℃以下に測定温度が制限されていたのに対して、500℃で内部雰囲気制御可能である高温型測定システムを構築した。これにより、これまでのように部分脱水素化量の異なる試料を逐次合成して個別に評価する必要がなくなり、部分脱水素化に伴う特性変化をその場測定することが可能となった。Li2B12H12とNa2B12H12はどちらも部分脱水素化に伴って高温相のイオン伝導率は低下することを明らかにした。部分脱水素化により錯イオンの配向挙動が抑制された可能性が考えられた。 (2)TiS2(正極)、Li(負極)、クロソ系錯体水素化物(固体電解質)から構成される全固体電池を作製し、その充放電特性を評価した。部分脱水素化を施したLi2B12H12を固体電解質として用いた場合に、理論値に対して約90%の充放電容量で安定した繰り返し動作を確認することができた。
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