本研究では,有機強誘電体であるPVDF系強誘電体(P(VDF-TrFE-CTFE))フィルムを用いて,消化器官内でマイクロカプセル内視鏡を移動させる機構の開発を目的とする。PVDFフィルムに表面加工を施すことにより,電圧印加時のPVDFフィルムのひずみ量を制御して移動機構を検証する。さらに,我々が開発したPVDFフィルムを用いた水素ガスセンサをpHセンサへ応用してマイクロカプセルに取り付け,消化器官のpH値を測定することによって,健康状態をリアルタイムにモニタリングできるデバイスの構築を目指す。 令和5年度は,溶液塗布法にて作製したPVDFフィルムに,変位量を大きくするために,深さ1mm,ピッチ幅2mmの波型になるように加工を施し,直流電圧(160V)と交流電圧(Vp-p160 V)を印加したときの変位量を調査した。直流電圧印加時の変位量は約500μmであったのに対し,交流電圧印加時の変位量は約200μmであった。また,方形波交流電圧印加時とフィルムの共振周波数近傍(9Hz)で変位量が最も大きくなることが確認できた。以上の結果から,マイクロカプセル内視鏡を移動させるためのPVDFフィルムを用いたアクチュエータを動作させることが可能なことを確認した。今後は,制御を含めたPVDFフィルムの最適設計と小型化を行い実際のカプセルに適応できるように研究を進めていく。さらに,PVDFフィルムにパラジウム(Pd)を堆積させたpHセンサについて,Pd薄膜が水素イオンを吸収する際のふるまいを定性的に評価した。pH値を調整した溶液中でのPd薄膜の抵抗値の測定を行った結果,溶液のpH値の減少に伴い抵抗値が増加することが確認できた。実際にPd薄膜が水素イオンを吸収してpHセンサが動作しており,センサ感度向上のためのセンサ設計ができた。
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