研究課題/領域番号 |
21K04704
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
松本 章宏 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 上級主任研究員 (20358047)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 金属水素化物 / 低温還元 / 高磁気異方性 / 磁性材料 |
研究実績の概要 |
FeNiはL10構造を有する金属間化合物である。L10-FeNiは高磁気異方性を有し、希少金属レスで耐熱性に優れるため、実使用温度域においてNd-Fe-B磁石に匹敵する性能を有する次世代の高性能磁石として期待されている。しかし、L10-FeNiは320℃以下でのみ安定に存在する物質であるため、拡散速度が極めて遅く、通常の手法では合成が困難であった。本研究では、湿式法により合成したFe-Ni前駆体粉(酸化物等)に対して、強力な還元力を有する“金属水素化物による低温還元技術”を利用して、規則相として安定な上限温度以下で十分な拡散現象を確保しつつ、高い規則度を有するL10-FeNiの実現を目指して行うものである。 令和3年度は、中和滴定による前駆体粉の合成を行い、得られた合成粉に対して金属水素化物を用いて300℃にて還元処理し、その特性評価を行った。具体的には、前駆体粉として、(1)Fe(3価)塩化物を出発原料としてFe-Ni水酸化物(Fh前駆体粉)、(2)Fe(2価)塩化物を出発原料としてFe-Ni水酸化物(FCL前駆体粉)を作製した。これら前駆体粉を還元処理して得られた還元粉はいずれもfcc相を主相として少量のbcc相を含んでいた。シンクロトロンにより構造解析したところ、L10を示す明瞭な回折ピークは観察されなかったものの、保磁力は前者が60[Oe]に対して後者は370[Oe]が得られた。FCL還元粉ではわずかながらL10構造を有する相が形成された可能性がある。また、前駆体合成過程においてFe(2価)からFe(3価)への変化を抑制するために、不活性雰囲気中(窒素)での合成を検討したが、有意な差は見られなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度は、コロナ禍に伴う緊急事態宣言の発出が3回あり、宣言期間中は平常時に比べて出勤率が3割に制限されたこともあり、一部の項目で当初計画したとおりの進捗とはならなかった。具体的には、令和3年度に計画していた「元素添加によるL10構造の安定化の検討」を十分に行うことができなかった。これについては、令和4年度に引き続き検討したいと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、主として以下の項目を検討する。 (1)L10構造の安定化に与える元素添加の効果の検討 Fe系およびNi系状態図を利用して、L10構造を安定化させる可能性を有する元素を抽出し、添加を検討する。 (2)新手法によるナノ・原子レベルでのFeとNiの均質分布の効果の検討 令和3年度は、中和滴定を利用して前駆体(Fe-Ni酸化物粉)合成を行った。中和滴定を利用した場合、溶液中のFe水酸化物飽和濃度とNi水酸化物飽和濃度に違いがあるため、ナノ・原子レベルでの均質分布の実現に限界があることと想定される。そこで、新手法を用いて、前駆体としてFe-Ni塩化物を合成する手法を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
<当該助成金が生じた状況>令和3年度は、コロナ禍に伴う緊急事態宣言の発出が3回あり、宣言期間中は平常時に比べて出勤率が3割に制限されたこともあり、一部の研究項目が当初計画したとおりの進捗とはならなかった。具体的には、令和3年度に計画していた「元素添加によるL10構造の安定化の検討」を十分に行うことができなかった。これにより、当該助成金が生じた。 <翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画>L10構造の安定化に与える元素添加の効果の検討(当該助成金に該当)・・・令和3年度に十分に行うことができなかった研究項目を引き続き行う。 (2)ナノ・原子レベルでのFeとNiの均質分布の効果の検討(令和4年度の当初計画に該当)・・・令和4年度の研究項目として、当初の計画どおりに行う。新手法を用いて、前駆体としてFe-Ni塩化物を合成する手法を検討する。
|