最終年度では、水素と窒素の混合プラズマ中エキシマレーザ照射プロセスによる窒素の低温導入において、前駆体膜の性質の影響を明らかにした。まず、前駆体膜として金属膜のCr、Ti、Ta、Si、Alを用いた場合、水素と窒素の混合プラズマ中でエキシマレーザ照射することで、Ta膜を除く全ての金属膜に、窒素が導入できることがわかり、最も窒素が導入されたのはCr膜であった。一方、Ta膜には窒素は導入されず、Ta2O5の酸化物が生成した。次に、前駆体膜としてTi、Ta、Zn、Inのカルボン酸塩を用いた場合、TiとTaのカルボン酸塩は、それぞれTiO2とTa2O5に結晶化したのに対して、ZnとInのカルボン酸塩は十分に結晶化が進行せず、アモルファスのZnOとIn2O3を形成した。これは、低酸素分圧下で不安定な酸化物は本プロセスでは結晶化しにくいことを示している。窒素の導入量は、In2O3が最も多く、Ta2O5が最も窒素導入量が少なかった。 以上の前駆体膜の金属の種類による窒素導入量の違いは、金属と酸素の結合解離エネルギーと金属の酸化ギブスエネルギー変化の負の大きさに関係していることが推測された。窒素の導入は、酸化反応と競合で起こるため、酸化ギブスエネルギーの負の変化量が小さいほど、酸化が抑制されるため、窒素の導入量が多くなることがわかった。また、酸素と金属の結合解離エネルギーがエキシマレーザの光子エネルギーよりも低い場合は、窒素導入量が多いことがわかった。これは、金属と酸素が結合を形成した場合においても、エキシマレーザ照射により、酸素と金属の結合が切断され、その切断部位に活性窒素種が反応することで、酸素から窒素への置換反応が進行するためであると考えられる。 本プロセスは、窒化物の形成には至らないが、数at%の窒素ドープ金属酸化物を低温で成膜するには有効である。
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