2023年度は、初期集合組織のランダム化により優れた冷間圧延性が得られたAZ31合金を主な対象として、冷間圧延に伴う材料組織の変化および冷間圧延後の焼鈍処理中の再結晶挙動を調査した。 始めに、弱い底面集合組織を持つ高温圧延材および強い底面集合組織を持つ通常圧延材に対し、それぞれ34%と14%の限界冷間圧下率まで1パス当たり5%の圧下率で冷間圧延を行い、EBSDにより冷間圧延中の組織変化を評価した。通常圧延材は歪み集中により局所に粗大せん断帯を形成した。高温圧延材は冷間圧延パスが多いため、せん断帯がより均一に多く形成された。通常圧延材は冷間圧延中に底面集合組織強度が9程度を維持したが、高温圧延材は底面集合組織強度が4.3から6.9に徐々に増大した。これは弱い初期集合組織の影響で、より活発な引張双晶の発生や底面すべりの活動によるものと考えられる。 次に、冷間圧延後に200℃または350℃で焼鈍処理を行い、EBSDにより再結晶挙動を調査した。高温圧延材と通常圧延材は両方ともせん断帯において同様な弱い配向を示す再結晶粒が優先的に生成した。初期再結晶段階にある200℃10s焼鈍材に対してTEMによる観察結果、せん断帯中の二次双晶内に再結晶粒が形成されることが確認された。一方、350℃焼鈍処理による完全再結晶状態では、通常圧延材は8.8から8.0にわずかに底面集合組織が弱化したことに対し、高温圧延材は底面集合組織強度が6.9から4.7に大幅に低下した。これは前者のせん断帯領域が少なく、材料全体の集合組織弱化に及ぼさないためと考えられる。本研究では、冷間圧延材の焼鈍集合組織を弱化するために、初期集合組織を弱くすることにより、冷間圧延時に割れが発生することなく、せん断帯の割合を増やすことが重要であると示唆された。
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