研究課題/領域番号 |
21K04722
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
阿相 英孝 工学院大学, 先進工学部, 教授 (80338277)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 表面処理 / 電気化学 / 軽金属 / アルミニウム / バイポーラ電気化学 |
研究実績の概要 |
本研究では,バイポーラ電気化学に基づく酸化還元(レドックス:Redox; reduction and oxidation)反応の制御・理解を通じて,軽金属表面に生成する金属酸化物の構造やその生成効率に対する電解条件の影響を系統的に調査することを主目的としている。バイポーラ電気化学を利用した軽金属の新たな表面処理技術として,本手法を実用するために2021年度は,アルミニウム表面にポーラスアルミナ(Al2O3)を形成する処理に着目し,従来の直接給電法(アルマイト処理)ではなく,無接点のワイヤレスなアプローチで酸化皮膜を形成する電解条件を調査し,バイポーラ電気化学の応用可能性を模索してきた。また,アルミニウムだけでなく,チタンなどの他金属にも本手法を適用し,様々な分野で利用できる機能性無機材料の創製技術としてもバイポーラ電気化学の可能性を模索した。 電気化学的手法に基づくアルミニウムの表面処理(アルミニウム表面への酸化膜形成,アルマイト処理)は,被処理物であるアルミニウムと対極を外部電源に接続し,直流や交流電圧を印加することで一般には実施されるが,バイポーラ電気化学を応用した本手法では無接続(直接通電なし)の被処理物に対しても,従来法同様に酸化膜を形成することができる。これまでは板状のアルミニウム試料を用いて基礎データを収集してきたが,本手法の有用性を示すために試料形状を板からミリメートルサイズの球に変更した場合でも,試料形状によらず類似の結果を得ることができた。本研究を通じて得られた成果は国内での学会発表に加え,学術論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究における基礎検討を継続し,電解液種,電解波形,周波数の影響に関する基礎データを収集し,金属酸化物の生成効率,酸化皮膜の構造に与える電解因子の影響を調査してきた。先行研究では低濃度のシュウ酸水溶液を電解液として用いていたが,電解液濃度を下げると皮膜成長速度が低下する問題があった。また,駆動電極間に印可した電圧に比べ実際に皮膜生成に寄与した電圧は6割程度であった。2021年度は,電解液の組成を見直し,従来の水溶液系に加え非水溶媒の適用を検討した結果,前述の電圧の割合を8割程度まで高められることを見出した。 従来の直接通電式のアノード酸化では,電解セルにおける試料(電極)の設置位置は,酸化皮膜の厚さの均一性に著しい影響を及ぼさないが,無接続式の本手法では,電解セルにおける被処理物の設置位置が重要な因子であることがわかった。バイポーラ電気化学に基づくアノード酸化においては,酸化反応(皮膜生成)と同量の還元反応が同一試料上で進行するため,REDOX反応の本質を理解するため基礎データの蓄積を進めている。バイポーラ電解時のアルミニウム上での酸化還元反応に及ぼす電場と電極配置の影響に関しては,学術論文(Scientific Reports, 11 (2021) 22496.)として公表した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度から継続し外部電場の効果を系統的に調査する。駆動電極間に位置する被処理物周辺の電位分布を解明し,酸化・還元反応を定量評価することで皮膜生成効率,電流効率等の改善を図る。実験室における基礎検討では汎用のビーカーを電解セルとして用いているが,複数試料を同時に処理できる電解セルのプロトタイプを制作し,工業化を志向した際の技術課題も明らかにする。 また,現時点では対象試料としてアルミニウムを用いて基礎データを収集しているが,材料を板状・球状のチタンに変え,他材料への本手法の適用可否を判断し,本現象の本質的な理解に努める。軽金属の表面処理としてはアノード反応(酸化反応)の制御が鍵となるが,電解セル内では同時にカソード反応(還元反応)も進行するため,金属イオンの還元析出を利用した異種材料のナノコンポジット合成の可否についても検証したい。
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