本研究では,バイポーラ電気化学に基づく酸化還元反応の制御・理解を通じて,軽金属表面に生成する金属酸化物の構造やその生成効率に対する電解条件の影響を系統的に調査することを主目的として研究を遂行した。バイポーラ電気化学を利用した軽金属の新たな表面処理技術として,本手法を実用するために2021年度は,アルミニウム表面にポーラスアルミナ(Al2O3)を形成する処理に着目し,従来の直接給電法(アルマイト処理)ではなく,無接点のワイヤレスなアプローチで酸化皮膜を形成する電解条件を調査し,バイポーラ電気化学の応用可能性を模索した。2022年度は,アルミニウムだけでなく,チタンやニオブなどの他金属にも本手法を適用し,様々な分野で利用できる機能性無機材料の創製技術としてもバイポーラ電気化学の可能性を模索した。 電気化学反応に基づくアルミニウムの表面処理は,被処理物であるアルミニウムを陽極として,直流や交流電圧を印加することで一般には実施されるが,バイポーラ電気化学を応用した本手法では無接続(直接通電なし)の被処理物に対しても,従来法同様に酸化膜を形成することができる。これまでの検討において,板状のアルミニウム小型試験片だけでなくミリメートルサイズの球においても,試料形状の違いによらず類似の結果を得ることができた。また,酸化チタンや酸化ニオブなど,酸化アルミニウムよりも誘電率の高い金属酸化物の場合には,膜厚に応じた干渉色を呈することから,無接続のワイヤレス電極であっても,その酸化領域を可視化することができた。 実際の工業の現場において軽金属材料の表面処理法として普及するまでには技術課題が多く存在するが,表面処理法としての活用だけでなく機能性無機材料の創製技術としても応用可能性を秘めた手法であり,基礎研究を通じて本現象の本質を整理し研究基盤を整備しておく意義は大きかったと考えている。
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