研究課題/領域番号 |
21K04724
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研究機関 | 広島工業大学 |
研究代表者 |
王 栄光 広島工業大学, 工学部, 教授 (30363021)
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研究分担者 |
佐藤 裕樹 広島工業大学, 工学部, 教授 (20211948)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ハイエントロピー / 電析 / 有機溶媒 / 複雑反応 / 耐食性 / 耐摩耗性 / 酸素発生触媒 |
研究実績の概要 |
サポート電解質LiClO4使用の有無の両条件下で、有機溶媒DMF‐CH3CN中にCrCl3、 MnCl2、FeCl2、CoCl2、NiCl2などの金属塩の1種類または5種類を溶かし、さらにモレキュラーシーブを用いて除水して電析浴液とした。浴液の温度は313±1 Kとし、窒素ガスによる脱気したのち、銅線にてサイクリックボルタンメトリー(CV曲線)を測定し、各種金属イオンの析出電位を把握した。その後、電位‐2.0V、‐2.5V、‐3.0V(vs.SSE)で銅基板に所定の時間で電析を行った。得られた電析膜の表面形態、成分、結晶構造等は、SEM、EDS、XPS、XRDおよびTEMを用いて調べた。また、電析皮膜の硬さと耐食性を調べ、さらに酸素発生反応(OER)に関する触媒活性をLSV曲線によって評価した。得られた結果は、以下の通りである。 (1)浴液中にLiClO4が存在する場合、リチウムはLi2CO3とLi2Oとして電析皮膜Aに含まれた。リチウムの含有は皮膜Aに不安定性をもたらしたため、LiClO4は本研究に適切なサポート電解質ではないと判断できた。一方、浴液中にLiClO4を使用しない場合、-2.0、-2.5および-3.0 V(vs. SSE)の定電位で安定性の高い皮膜Bが得られた。皮膜Bは、一部のナノ結晶を含むアモルファスであり、50%程度の酸素原子数を含み、Cr、Mn、Fe、CoおよびNiの原子比率がほぼ等しい。 (2)皮膜Bに、CrおよびMnに完全な酸化物/水酸化物、Feに殆どの酸化物/水酸化物、Coに半分程度の酸化物/水酸化物、およびNiに少量の酸化物/水酸化物が検出された。金属元素のみから計算されたエントロピーが1.5R以上であり、酸素含有型のハイエントロピー合金皮膜であることが確認された。 (3) 皮膜Bの変形抵抗は、銅基板より高い。また、3.5%NaCl水溶液での腐食電位が高く、腐食電流密度が銅基板に相当する。なお、皮膜Bに、酸素発生反応において高度な電極触媒活性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の通り、種々の実験、解析および考察が進んできた。研究実施中、当初の予想とやや掛け離れた結果としては、「皮膜への酸素含有の容認」と「高度な電極触媒活性の発見」があった。具体的に、以下のように述べる。 浴液にCrCl3、 MnCl2、FeCl2、CoCl2、NiCl2をすべて含有させた場合、元素間に共析現象が現れ、個々の電位制御が複雑になったため、定電位での電析を実施した。また、電析で得られた皮膜は酸素の含有が避けられないものであった。酸素の由来は、浴液中の溶存酸素と残留水ではなく、有機溶媒(DMF‐CH3CN)であることが種々の調査によって確認された。浴液構成には、有機溶媒以外の選択肢がないため、皮膜への酸素の含有を容認した。 得られた酸素含有型ハイエントロピー合金皮膜の硬度と耐食性を調べたところ、微小荷重硬さが銅基板と同等で、また耐食性も十分であることがわかった。硬さが耐摩耗性に連動するため、相当の耐摩耗性が有すると判断できる。さらに、この皮膜はナノ結晶をもつアモルファス構造であるため、酸素の欠陥が多いと推測した。これに基づき、酸素発生反応において過電位を測定した。その結果、高度な電極触媒活性を示した。今後、皮膜の合成にパルスを含めた各種電析条件を調整しながら、より高い耐食性、耐摩耗性と触媒活性をもつハイエントロピー合金の皮膜を作成したい。
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今後の研究の推進方策 |
ほぼ従前計画の通りで課題を遂行する予定である。 前年度での研究結果に踏まえて今後は、電析皮膜への酸素含有を容認しながら、他の非金属元素の含有可能性とその効果を検討したい。また、浴液での多元素共析現象が生じ、単純パルスの設計が困難になったため、変則のパルスを利用して皮膜の合成を行う。さらに、皮膜の耐食性と耐摩耗性を追求するのみならず、酸素発生触媒活性の向上やそのメカニズム解析にも重点を置きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、研究成果を発表するために参加した学会は、すべてオンラインで開催された。従って、予定していった出張旅費の支出がなかった。また、初期的研究においては、アルバイトの雇用をしなかったため、人件費の執行がなかった。 次年度、今年度で執行しなかった経費を、これからの電析メカニズムの解析や触媒活性測定に必要な回転電極装置の購入費の一部に充当したいと思う。
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