本研究では,耐火物の長寿命化に資する基礎的研究として,耐火物の溶損と破壊現象について,以下の二つの研究を実施した。研究Ⅰは溶銑,溶鋼用の耐火物に関する,粒子法を用いた溶損シミュレーションプログラムの開発であり,研究Ⅱはキャスタブル(不定形)耐火物の乾燥破壊現象シミュレーションプログラムの開発である。研究Ⅰにおいては,固体の液体への溶解モデルを作成し,シミュレーションモデルを開発した。検証実験として,計算で用いたモデルと同様のスケールのアクリル製水槽に純水を充填し,ショ糖円柱を浸漬して様々な速度で回転させ,ビデオ観察及びサンプリングによって形状変化と溶解速度を測定した。シミュレータを用いて,実験結果を再現することができた。最終年度は,溶解実験においてより厳密な温度管理を実施し,再現性の向上を図った。鉄るつぼ中に溶解したFeO系スラグにCaO円柱を浸漬回転させた溶解実験のデータ解析に,開発したシミュレータを適用し,良好な結果を得た。研究 Ⅱでは,粒子法の一つであるSPH法を用いたシミュレータの開発を行った。各粒子の応力を,粘性項,弾性項,塑性項のそれぞれに分割し,対応する支配方程式を連成して解を求め,降伏応力を超えた時点で破壊が生じると考え,数十万粒子のスケールで計算を行うことのできる解析プログラムを作成した。一方,CaCO3-水系をモデル物質として,10cm×10cmの正方形ガラス容器に保持し,常温で亀裂の発生及び進展の状況をビデオカメラによって連続撮影し,画像解析による定量化を行った。最終年度は不安定な応力変動を示す粒子の挙動を制御するために,計算プログラムの改良を行った。さらにキャスタブル耐火物への応用のため,高温乾燥セルを作成し実験を行った結果,開発したシミュレータは高温におけるCaCO3-水系ペーストの亀裂進展を十分に再現することができた。
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