研究課題/領域番号 |
21K04746
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
村上 賢治 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (10272030)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 温度応答性高分子 / 吸着剤 / ヒドロゲル / 分子篩 / 有機無機複合体 |
研究実績の概要 |
N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)と架橋剤であるN, N’-メチレンビスアクリルアミド(BIS)から構成される温度応答性高分子PNIPAMヒドロゲル(PNHG)をメソポーラスシリカ(MS)吸着剤表面へ固定化したPNHG/MSを合成した。ここでは,MS表面とPNHGを繋ぐシランカップリング剤であるメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル(MPS)添加量を変えてPNHG/MSを合成した。なお,MS前駆体8 gに対してMPS添加量は0.12~2.4 mmolの範囲で変化させた。TGにより,MPS添加量を増加させると,MPS固定化量は0.06 mmol/gから1.45 mmol/gへと増加することが分かった。一方,PNHG被覆量は,MPS添加量とは関係なく,50~60 wt%であることが分かった。メチルオレンジ(MO)吸着速度解析の結果,いずれの試料も擬二次速度式に従うことが明らかとなった。ここでは,PNIPAMの下限臨界溶解温度(LCST)である32℃前後の30℃と50℃における速度定数の比K=k50/k30を用いて吸着挙動を検討した。この値が1より小さい場合は30℃の方がMOはMSに吸着しやすいことを意味する。MPS添加量が0.24~2.4 mmolの範囲では,Kは約0.7であり,30℃の方が僅かに吸着しやすいことが分かった。一方,MPS添加量が0.12 mmolの場合,Kは約0.1まで低下した。MPS添加量が極端に少ない場合,PNHGの分子量は長くなることが推測される。その結果,温度変化に対して体積膨張率を大きく変化させることができ,また,PNHGの構造の自由度が高いため,温度によって大きく吸着挙動が変わったと考えられた。このように,MPS添加量をできるだけ少なくすることで,吸着可能な分子サイズを温度で制御できる可能性があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,MS表面を覆っているPNHGの体積膨張率を如何にして温度で精密に制御するかが重要となる。今年度はMSとPNHGを繋ぐシランカップリング剤のMS表面への固定化量を極端に少なくすることで,PNIPAMのLCST前後でのMO吸着速度を約10倍変化させられることを明らかにした。また,以前の研究で,架橋剤であるBISの添加量のMO吸着に及ぼす影響も検討している。3次元網目構造を形成させるためには,BISの添加は必須である。しかしながら,BISを多く添加しすぎると,MO吸着挙動に温度の違いの影響が現れにくくなった。これはヒドロゲルの構造の柔軟性が失われたためと考えられた。このように,MS表面には比較的自由に動けて,架橋度の低い柔軟なPNHGが存在していることが重要であることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は当初の予定通り,温度によって膜透過可能な分子サイズを制御するための膜透過装置を製作する。ガラスフィルター(孔径10-16 μm,膜厚4 mm,直径40.5 mmφ)表面にMSを固定化し,更にその外表面にメタクリル基を持つMPSを付加する。それを足場としてPNHGをMSに繋ぎとめ,透過膜とする。複数の色素(メチルオレンジ,ブロモフェノールブルー,コンゴーレッド,メチレンブルー,マラカイトグリーンなど)を含む混合水溶液を流通させ,分離室から流出する水溶液を所定時間毎にサンプリングし,UV-Visで濃度測定を行う。更に,透過膜を含むユニットを温度制御し,温度によって膜分離係数がどのように変化するかを評価する。そして,温度制御による精密な分子篩作用を達成するために,透過膜へのMS固定化量,PNHG被覆量,シランカップリング剤添加量,架橋度などの最適化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
順調に研究が進み,想定より試薬や消耗品の使用量が抑えられたため,次年度に繰り越すこととした。繰り越した予算は次年度の消耗品の購入に充てる予定である。
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