研究課題/領域番号 |
21K04754
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
朝熊 裕介 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (40364038)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | microwave / hydrogen bond / light speed / permittivity |
研究実績の概要 |
ソフトマターとは、高分子、液晶、生体分子(蛋白質、DNAなど)などの柔らかい物質の総称であり、これらの物質では、分子クラスターレベルで複雑な構造を持ち、その自由度も大きい特徴がある。このため、分子間・分子内の結合が複雑であることから安定性の予測などダイナミクス(動的挙動)の測定は困難であった。水中のソフトマターの挙動を測定できる新たな手法として、外場印加によってその構造を崩壊させた後の経時変化の測定を考えた。今回、界面活性剤の分子集合体であるミセルに注目している。本研究では、マイクロ波照射によって水分子や界面活性剤の極性部位を強制的に回転させ、水中の鎖状や球状の高次構造を崩壊させる。その後、再構築していく過程を観測することを目標としている。最終的に、溶液の構造と関係がある屈折率を照射中・照射後で測定し、ミセルのダイナミクスを解明する。 まず、初年度の研究として、マイクロ波照射中の液体の屈折率測定装置を完成させた。本装置はマイクロ波に対して耐性がある光ファイバーによる方法を用いており、その測定装置は世界で初めてと考えられる。まず、分子量の大きな種々の溶液の測定を始める前に、脱気水の屈折率測定を行った。この結果から、各照射強度に対して、水分子のマイクロ波照射中での挙動を予想できた。今後、随時、初期に想定した界面活性剤水溶液や高分子水溶液等に対して、マイクロ波照射中の屈折率測定を行っていき、次年度以降、当初の目標を随時達成していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ソフトマター水溶液のマイクロ波照射中の屈折率の測定に先立ち、完成させた装置の検証、特性を検討するために、純水での屈折率を測定した。マイクロ波照射中の水の屈折率は減少していくことを発見した。この減少量はマイクロ波出力に依存し、800W5sの照射では、非照射の1.32から1.27へ屈折率が低下した。これは、マイクロ波照射中に水中での光の速度が非照射と比べて速くなり、真空中の光速に近づいたことを意味している。同時に、屈折率の低下は、マイクロ波照射中の水の誘電率も低下したことを意味している。この現象は、水分子の水素結合数がマイクロ波照射中では小さくなったことで説明でき、空隙やナノバブルの生成がその要因として考察できた。このように、マイクロ波照射中では水の物性値が非照射と異なる新しい現象が発見され、種々のマイクロ波照射による非熱効果の証明になったと考えられる。現在、本研究成果は英文誌に投稿中である。なお、初年度の結果として、将来的なソフトマター水溶液の構造予測の最終目標に向けて、十分な検証ができた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は、純水においてマイクロ波照射中の屈折率の測定が可能となった。今後の課題として、屈折率測定に関して、最適なマイクロ波照射モード(出力変更やパルス照射)の探索があげられる。例えば、マイクロ波パルス照射を行い、パルス回数やパルス照射間隔等を変更する。この時、パスルの回数などで水素結合数がどの程度変化するか、パルス照射間隔でどの程度水素結合のネットワークが回復するか等、検証できると考えられる。また、純水の測定後は、ソフトマターとった複雑な高分子の測定の前に、エタノール水や食塩水など、比較的単純な分子の測定を開始する。同様に、連続照射のみならずパルス照射で比較的低分子の水溶液を検証することで、イオンや低分子の分子集合特性を把握する。最終的に、最終年度での複雑系の現象の理論構築につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費を想定していたものの、コロナウィルスにより、国際会議および国内会議がオンライン開催となるなど、出張を行うことができなかった。
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