研究課題/領域番号 |
21K04782
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
押切 光丈 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主幹研究員 (20354368)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 二酸化炭素還元 / 不均一光触媒システム / 多環式炭化水素 / 遷移金属 / 複素環式化合物 / 第一原理 / 量子分子動力学 / 電子構造 |
研究実績の概要 |
局所密度汎関数法(DFT-LDA)に基礎をおく量子分子動力学(QMD)を用いて、実験環境温度(室温)に平衡な、光触媒物質(ここでは暫定的に、環数の異なった2種類の環式炭化水素が1次元的に連なったもの)、助触媒(同、遷移金属や複素環式化合物等)、反応液(同、アセトニトリル、アミン類、水、二酸化炭素分子等が主成分)、からなる、実験系をほぼ忠実に再現したいくつかの不均一系計算モデルを構築し、それぞれの系全体の電子構造の詳細をまずはLDAレベルで明らかにしつつある。前年度は、構成要素の特別な集合状態を想定しない室温平衡状態で、各構成要素分子の電子構造が、全システムの大雑把な電子構造においてどのように位置づけられるかマッピングし、単純に溶存する二酸化炭素分子に光励起電子を注入することは難しいこと等を明らかにした。本年度はそれら基礎的知見をもとに、溶存する二酸化炭素分子の周辺環境を変えることで当該二酸化炭素分子の電子構造がどのように変化するかについて検討した。より具体的には、遷移金属イオン、複素環式化合物、光触媒物質、二酸化炭素分子等で構成されるいくつかの配位構造体が溶液中で形成されることを想定してその室温平衡状態における電子構造を調べるというものである。直線的な二酸化炭素分子構造が、周辺環境により室温程度でも構造が変化し、少なからずその電子構造に影響を与えることが分かり、現在その様々な制御因子について検討を重ねている状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、DFT-LDAに基礎をおくQMDを用いて、複合的な環式炭化水素、複素環式化合物、および遷移金属元素イオンで構成される複雑な配位構造体と、二酸化炭素が溶存する反応液で構成される実際に即したリアルな二酸化炭素還元用不均一光触媒システムの初期的計算モデルを構築し、そのモデルの全体の電子構造と局所的各構成要素分子の電子構造の関連性を詳細に明らかにすることができ、さらに、その電子構造の知見をもとに、不均一システムの構成要素分子の位置関係等を再構築し、実験温度で熱平衡状態にあるいくつかの計算モデルの電子構造を検討すると、まだ十分ではないものの、光励起電子の二酸化炭素分子への供給性能はずっと良くなる結果が得られた。不均一システム中のそれぞれの構成要素分子の巧妙な協同作用による機能発現メカニズムの一端が見え始めたことから、光励起電子の二酸化炭素分子への結合性を向上させるための当該不均一光触媒システムの詳細構造設計指針がいくつか得られた状況である。また、システムの非占有準位に電子を詰め込むことで光励起状態をまねた量子分子動力学計算手法の準備や、占有・非占有準位境界付近の電子配置を制御することで光励起状態を模擬する同計算手法の準備を進めることができた。現状小さな分子モデルではあるものの良好な応用適用性を確認している。さらに、LDA近似であるが故に生じてしまう誤差(特に非占有準位エネルギー)を改善するため、ハイブリッドファンクショナル (HF)法の具体的応用技術の検討も進んだ。以上のことから、今のところは研究が順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引続き、ターゲット分子である二酸化炭素分子由来の電子構造位置(特に非占有準位の位置)の当該二酸化炭素分子周辺環境依存性を詳細に調べる。現状では、光励起された電子は二酸化炭素分子にまだ十分には供給されない状況であるため、この電子構造的ミスマッチの問題を、構造による作用のみならず、別な作用も考慮して解決できないか検討する。また、LDA近似による電子構造計算では、特に非占有準位の計算結果における誤差が大きいため、一見LDAレベルの計算では光励起電子がターゲット分子にうまく供給されないように見えても、計算誤差の少ない手法ではうまく結合できているように見える場合もあり得る。もちろんその逆もあり得る。そのため、相関エネルギー部分の算出にはLDA近似を用いるものの、交換エネルギー部分については厳格に見積もることで計算精度を上げるHF法を使った電子構造計算を試みようと考えている。これにより非占有準位の電子構造におけるLDA近似由来の計算誤差が改善され、特に重要な反応中心部分の電子構造が明確になると期待できる。しかし計算量が概ね千倍のオーダーになるため、HF法ではシステムの部分分割や考察対象重要部分から遠く離れた溶媒分子の削除等による計算量削減等の工夫が必要となる。とはいえ、当該研究課題における典型的な系に関してLDA法とHF法とで得られる電子構造の差が明らかになれば、仮にそれがたった一つの系であっても、その情報をもとに他の多くの類似の系のLDA計算結果をより正しく解釈・認識できることになるため、その後の確度の高い、より速やかな研究の進展が期待できると見込むことができる。注意深くより良い計算モデルの構築に注力したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた理由は、主に、研究支援業務が十分な勤務日数で確保できなかったことと、電気料金の高騰による令和5年度からの計算機利用課金額単価の増大や、研究の進展とともに増える計算量の増大による計算機利用課金額の増大に備えるため、研究期間全体における支出の時期や内訳の調整が必要になったためである。繰越分は、主に計算機利用費用として使用する予定である。
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