研究課題
前年度は、複合的な環式炭化水素、複素環式化合物、および遷移金属元素イオンで構成される複雑な配位構造体と、二酸化炭素が溶存する反応液で構成される実際の組成に即したリアルな二酸化炭素還元用不均一光触媒システムの初期的計算モデルで得られた全体の電子構造と局所的各構成要素分子の電子構造の詳細な関連性に関する知見をもとに、不均一システムの構成要素分子の位置関係等を再構築し、実験温度で熱平衡状態にあるいくつかの計算モデルの電子構造を局所密度近似(LDA)レベルで検討し、不均一システム中のそれぞれの構成要素分子の巧妙な協同作用による二酸化炭素還元機能発現メカニズムの一端を見出だすことができた。今年度は、前年度までの基礎的研究知見をもとに、光励起電子の二酸化炭素分子への結合性をさらに向上させるための反応中心構造の探求を行い、特に有望な構造の不均一系に対しては、様々な濃度でキャリア注入を行うことで二酸化炭素分子運動へのキャリア濃度依存性を調べることができた。また、その膨大な計算量から、これまで当該不均一系の全電子構造はLDAレベルのみで検討してきたが、今年度は、より一層の計算手法の最適化を行うことにより、LDAレベルで使用した計算モデルを特に簡略化することなく、HF(ハイブリッドファンクショナル:相関エネルギーは局所密度近似レベルで計算するが交換エネルギー部分はハートリーフォック法の正確な交換エネルギーを利用する手法)レベルで全電子構造を得ることができ、二酸化炭素還元機能発現メカニズムをより正確に追究することができた。さらに、配位構造体中の金属元素種を変えることによる影響を調査するため、様々な金属元素に対する多様な擬ポテンシャルの準備も進め、その一部については、光還元用不均一系への応用を介してその性能が良好であることを確認することもできた。
2: おおむね順調に進展している
複合的な環式炭化水素、複素環式化合物、および遷移金属元素イオンで構成される複雑な配位構造体と、二酸化炭素が溶存する反応液で構成される実際に即したリアルな二酸化炭素還元用不均一光触媒システムの計算モデルに関して、前年度までの基礎的研究知見をもとに、光励起電子の二酸化炭素分子への結合性をさらに向上させるための反応中心構造の探求を行い、いくつか有望な不均一系モデルを見つけるに至った。また、これらのモデルに対してキャリア注入を行うことで二酸化炭素分子運動への影響を調べることができた。さらに、LDAレベルのみで検討されていた当該不均一系の全電子構造を、一層の計算手法の最適化を行うことにより、HFレベルで計算できるようになったことで、二酸化炭素還元機能発現メカニズムをより高い精度で理解できるようになった。最近では、配位構造体中の金属元素種を変えることによる影響をより高い精度で調査するため、様々な元素に対する多様な擬ポテンシャルの準備も進めている。これらのことから概ね研究は順調に進展していると考えている。
引続き、ターゲット分子である二酸化炭素分子由来の電子構造位置(特に非占有準位の位置)の当該二酸化炭素分子周辺環境依存性を詳細に調べると同時に、配位構造体中の金属元素種の影響も詳細に調査し、光励起された電子をより効率よく二酸化炭素分子に供給できるようにするための検討を行う。LDA法だけでなく、必要に応じてHF法による電子構造計算をおこなうことで、より高い精度で機能発現メカニズムを追究し、二酸化炭素の光還元システムに関する見通しの良い一般的な設計指針の確立を目指したい。
本研究課題を支援できるスキルを有する適切な研究支援業務員を確保できなかったことが次年度使用が生じた主な理由である。繰越分は、主に共用設備としての計算機利用費用として使用される予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
Journal of the American Chemical Society
巻: 145 ページ: 20530, 20538
10.1021/jacs.3c06688