本研究は、ギ酸塩水溶液を直接燃料に用いる固体アルカリ燃料電池(DF-SAFC)の高性能化に向けて、Pd系コアシェル型ナノネットワークを基盤としたギ酸塩酸化触媒および触媒層の設計・開発を目的としている。2021、2022年度は、Ruナノ粒子連結ネットワーク表面上にPdシェル層を形成するための合成条件を検討した。前駆体、還元剤、反応温度などを調整しPdの核発生・成長速度を制御することで、Ruコア表面のPd構造を作り分けることに成功し、目的とするPd系コアシェル型ナノネットワーク触媒を得た。 2023年度は、開発した触媒について詳細な評価・解析を行い、触媒表面構造とギ酸塩酸化反応(FOR)活性の関係性を整理した。その結果、Ruナノネットワーク上にPdナノ粒子を形成させたものに比べ、薄いPdシェル層がより高いFOR表面比活性と低いオンセット電位を示すことが分かった。このことから、Pd表面へのRuからの効率的なOH供給がFORの高活性化に重要であることが示唆された。 さらに、開発したRu@Pdナノネットワーク触媒をアノード触媒層に展開し膜電極接合体(MEA)を作製し、DF-SAFC発電試験や電気化学測定を行った。得られた出力は、従来のアノード触媒を用いたMEAと比べても遜色ない高い発電性能を示した。Ru@Pdナノネットワーク触媒を用いた担体フリー触媒層は、従来のカーボン担持Pd系ナノ粒子触媒よりも数倍厚さが薄く、高い空孔率を有する。この様に、本研究で開発した担体フリーRu@Pdナノネットワーク触媒は、物質移動に対し有利な高空孔率・薄層構造を持つアノード触媒層を形成でき、DF-SAFCの高性能化を実現しうる有望なMEA材料であることが実証された。
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