研究課題/領域番号 |
21K04786
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
大貫 喜嗣 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (70759315)
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研究分担者 |
黒澤 尋 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (10225295)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヒトiPS細胞 / 非凍結保管 |
研究実績の概要 |
本研究では、コンタミネーションのリスクを回避したまま、凍結および解凍作業を必要としない革新的密閉系非凍結保管方法の開発を目指す。本年度は、本非凍結保存法であるポリオレフィン製プレートシールによる密閉低温保存法(POF非凍結保管法)がヒトiPS細胞の生存率、未分化性および分化方向性に及ぼす影響を明らかにした。 培養したヒトiPS細胞(201B7)を、POF製プレートシールで密閉し、3日間、4℃にての非凍結保存したヒトiPS細胞を37℃に復温し、再培養した。復温後の生存率および復温後の生存率および増殖性を評価した。さらに、未分化維持因子不含培地を用いて自発的にヒトiPS細胞を初期三胚葉へ分化誘導し、保管後がヒトiPS細胞の多能性に及ぼす影響を定量RT-PCRによって評価した。 その結果、POF非凍結保管法を実施したヒトiPS細胞は30%以上の生存率を示しており、増殖性にも影響を及ぼさなかった。また、定量RT-PCR解析によって、未分化関連遺伝子(OCT3/4、NANOG、SOX2)、および初期三胚葉関連遺伝子(初期外胚葉としてSOX1、PAX6、初期中胚葉としてGATA4、AFP、初期内胚葉としてSOX17)に関しても発現量に影響を及ぼさなかった。また、POF非凍結保管後のヒトiPS細胞については内中胚葉への分化がしにくい可能性が示唆された。 さらに、OCT3/4レポーター遺伝子導入株である201B7-OCT3/4-GFP株においても非凍結保管が実施できることが明らかとなった。POF非凍結保管後の201B7-OCT3/4-GFP株において、GFP発現が確認されており、ヒトiPS細胞の未分化性が維持されていた。 以上のことから、低温保管がヒトiPS細胞の品質に及ぼす影響は低いと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
POF非凍結保管法によって、未分化性を維持したまま30%の生存率でヒトiPS細胞が非凍結保管できることが明らかとなった。一方、中胚葉への分化がしにくい可能性が示唆されたが、内・中胚葉への分化誘導については、内中胚葉分化を促進する誘導培地により再評価すべきと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、201B7-OCT3/4-GFP遺伝子導入株を用いて、POF非凍結保管後のヒトiPS細胞の未分化性をフローサイトメトリーによって定量的に評価する。また、非凍結保管前の緩衝液濃度ならびに二酸化炭素分圧を最適化することによって、pHが非凍結保管時のヒトiPS細胞の生存率に及ぼす影響を明らかにする。これによって、低温保管時のヒトiPS細胞の生存率を現段階よりも向上をできると考えている。 さらに、POF非凍結保存によるヒトiPS細胞の生存率低下の原因を明らかにする。非凍結保存期間のヒトiPS細胞から生じる活性酸素種(ROS)生産量を測定するともに、定量RT-PCRによってアポトーシス関連遺伝子の発現を解析する。また、ネクローシスおよびアポトーシスの評価を行う。さらに、未分化および自発的分化誘導させたヒトiPS細胞のミトコンドリアの成熟性をMitotrackerおよび定量RTPCRによって測定し、非凍結保管下でのミトコンドリアの成熟性とROS生産の関連性を評価する。 加えて、令和4年度よりPOF非凍結保存法の安定性向上に寄与する化合物の探索を行う。 抗酸化物質(アスコルビン酸など)、ROS除去剤(N-アセチル-L-システイン)、アポトーシス阻害剤(Y-27632)などの化合物を様々な濃度で添加し、POF非凍結保管法によってヒトiPS細胞を保管する。保管後のヒトiPS細胞の生存率を向上させる化合物が明らかとなった場合、復温後の増殖性、未分化性および多分化能に及ぼす影響を評価する。
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