研究課題/領域番号 |
21K04792
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
田島 誉久 広島大学, 統合生命科学研究科(先), 准教授 (80571116)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 物質変換 / 低温菌 / GFP |
研究実績の概要 |
本年度は有用物質を高生産するシンプル酵素触媒の構築と中温での熱処理に対する触媒反応場としての低温菌の解析を行った。 1.有用物質を高生産するシンプル酵素触媒の構築 リグニン系バイオマスから得られる芳香族化合物のフェルラ酸に着目して、これを変換するシンプル酵素触媒の構築を行った。フェルラ酸を脱炭酸、酸化して得られるバニリンを目的産物として中温性変換酵素を発現する低温菌株を構築し、変換酵素の活性を評価した。また、この菌株を中温で熱処理したシンプル酵素触媒によるバニリン生産を確認した。芳香族化合物の水溶性が低いことから有機溶媒を用いた変換も実施した。その結果、前段の脱炭酸酵素に比べて後段の酸化酵素の変換量が少ないことが明らかとなり、酸化酵素の発現量を向上させるために酵素毎に発現させた細胞を混合した変換等により検討を行った。変換活性の高い酵素を発現するために新たに変換活性を持つ微生物を取得し、酵素の特性化を進めている。 2.中温での熱処理に対する触媒反応場としての低温菌の解析 中温で熱処理した際の低温菌細胞および変換酵素の挙動を解析するため、緑色蛍光タンパク質(GFP)と融合したβ-ガラクトシダーゼや変換酵素を発現する低温菌株を作製した。熱処理後の細胞を遠心分離により分画し、細胞外に漏出した酵素を確認するためにGFP蛍光による評価系を構築した。その結果、GFP単独やβ-ガラクトシダーゼより低分子量の変換酵素では大部分が細胞外に漏出したが、β-ガラクトシダーゼはほとんどが細胞内に留まっていたことを確認した。また、熱処理により細胞表面に突出が生成し、それが遊離したと思われる膜小胞を確認した。さらに、膜小胞においてもGFP蛍光がフローサイトメトリーにより観察されたことから発現した酵素は膜小胞に内包されうると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
物質変換触媒の構築については、予定通りに当該酵素を発現する低温菌株を構築して各酵素活性を確認した。また、低温菌シンプル酵素触媒による反応において目的生産物を生成した。その一方で、目的生産物の生成量を向上させるには異なる二種酵素の変換活性を調節する必要があり、特に後段の酵素活性を高めるためには酵素活性自体の向上が課題として示された。熱処理による細胞と変換酵素への影響については、酵素の細胞外漏出をGFP蛍光にて検出する評価系により分子量の異なる酵素間で比較したところ、その大きさと漏出の程度に関連性が見られ、反応場構築の方向性が示された。上記のように本年度は触媒のプロトタイプを構築できたこと、また熱処理による低温菌細胞や変換酵素の挙動を評価する基盤を構築することができたことから、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、有用物質の変換触媒とその反応場の構築を進めるべく、下記項目を遂行する。 [有用物質変換触媒の構築] フェルラ酸を資化する微生物を新たに単離したため、それらから変換活性を指標とした変換酵素の精製と特性化を行うことで活性の高い酵素資源を取得する。また、酵素発現量を高める取り組みも行う。それらに基づいてシンプル酵素触媒を作製して効率的な変換プロセスの構築を進める。 [反応場の構築] 中温の熱処理による細胞構造への影響を調べるために、電子顕微鏡による細胞構造の観察を行い、損傷を受けている部位を明らかにする。それらの知見を基にして細胞内に変換酵素を留めるための反応場を設計する。
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次年度使用額が生じた理由 |
オンラインで学会発表を行ったために出張費が不要となったが、これを物品購入に充てて代謝物解析装置を整備した。その一方で、消耗品が予定よりも少額で賄えたために次年度使用額が生じた。これと合わせて細胞構造や凝集など反応場の解析に必要な酵素等試薬を購入したいと考えている。
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