本課題では、抗体医薬品生産において、長期間の動物細胞培養時に生じる細胞の老化現象と生産抗体の品質の関連性の解明を目的として研究を推進した。基本的な実験手法は、IgG1抗体を生産する組換えCHO細胞を用いた長期間の連続培養である。連続培養として灌流培養を行い、培養温度・培養液pH・溶存酸素濃度・攪拌速度・灌流率(培地交換量)等を変数とした各条件を設定、培養条件を変更させながら培養を行い、抗体特性解析を行った。 N-型糖鎖構造を解析した結果、培養条件の変化に応じて末端ガラクトシル化量が大きく変動し、1日あたりの累積生細胞数と末端ガラクトシル化割合に正の相関性が見出された。この結果より細胞増殖性が良好な条件下では、ガラクトシル化糖鎖を多く備えているために細胞障害活性が高い抗体が生産されることが示唆された。つまり増殖性が高い条件では解糖系などの代謝系酵素活性も高く、末端ガラクトシル化に至る基質なども多く生産された結果、細胞障害活性が高い抗体が多く生産されたと考察される。また正の相関性から外れている条件下では、培養液中のアンモニウムイオンが多く産生されていた。 老化現象とIgG1抗体のN-型糖鎖構造の関連性の検証のため、GLB1ガラクトシダーゼとその関連制御因子をCHO細胞で発現させ、β-ガラクトシダーゼ活性を測定した。結果、関連制御因子の有無に関わらず活性はほぼ変化しなかった。活性測定の結果については検討の余地を残しているが、CHO細胞では関連制御因子の発現量はN-型糖鎖構造の変動には影響を与えない可能性が考えられる。 本課題の成果の総括として、連続培養を利用した培養条件探索からN-型糖鎖構造の末端ガラクトース付加が更新する条件を見出した。この成果は今後、バイオ医薬品生産における品質制御への応用が期待される。老化現象と抗体品質の関連性については、今後、継続的な研究、検証が必要である。
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