本課題では大腸菌を触媒とした微生物燃料電池に着目し、燃料をグルコースとした時の出力改善に向けて、「染色体改変による有用機能の集約」と「触媒の簡易評価システムの構築と有用変異のスクリーニング」から触媒改善に取り組んだ。2022年度までに、有用機能の集約については、先行研究で取得したΔ5株にppc遺伝子を導入した株で平均出力は野生株より低下するがクーロン効率(C効率)は増加することを明らかにした。さらに、ppc発現量をプロモーター変異で弱めたΔ5+ppc(weak)株を構築し、平均出力はΔ5株とほぼ同じで、C効率はΔ5+ppc株より低いが、Δ5株より高いことを示した。また、触媒評価システムについてはメディエーターHNQの酸化型と還元型の色の違いより細胞からのメディエーターへの電子移動を目視で評価する系を構築した。 2023年度は、Δ5+ppc(weak)株をベースにグルコース取り込み能を高めるために、galP、glk、ndh等を過剰発現する株を構築した。しかしΔ5+ppc(weak)と比べて出力、C効率が改善された株は得られなかった。前年度構築した触媒評価システムを用いたスクリーニングでは、野生株をベースにした場合は前年度分も加えて平均出力が向上した株を4株取得し、これらはC効率も上昇していた。特にmut3株は野生株と比べ平均出力が1.5倍、C効率が1.3倍に上昇した。Δ5をベースにした場合は出力の改善は見られずC効率が少し高い株が1株得られた。計画には無かったが、HNQを含む培地で継代培養しHNQ耐性を持つΔ5株を取得した。この株では平均出力が僅かに高くなりC効率も上昇し、負極に添加するNaHCO3量を7%に増やすと平均出力は0.31 mW/cm3に達した(これまでの最高値0.27mW/cm3)。メディエーター添加による細胞活性の低下が出力に影響していると考えられる。
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