筋線維芽細胞は器官の間質細胞から生じる細胞であり、器官の修復を担う一方、線維症など慢性炎症疾患の原因細胞でもある。筋線維芽細胞の形質を制御する分子機構を解明することができれば、線維化の抑制・治療につながる。本研究は、コラーゲンゲル器材を用いて、筋線維芽細胞を正常間質細胞である平滑筋細胞へと形質転換させることで、その分子機構を解明し、形質転換要素の同定を目指す。これまでにニワトリ平滑筋由来筋線維芽細胞を用いて、IV型コラーゲンゲルの化学シグナルが細胞を伸長させ、細胞ネットワーク形成に働くことを明らかにした。またこの化学シグナルの受容はグリコサミノグリカン鎖を有する分子が担うことも見出した。さらにIV型コラーゲンゲルの物理シグナルがニワトリ筋線維芽細胞の増殖抑制に働くことを見出した。今年度は、これらニワトリ筋線維芽細胞での知見を元に、ヒト平滑筋由来筋線維芽細胞の平滑筋細胞形質転換誘導を行った。その結果、I型コラーゲンゲル上でヒト筋線維芽細胞を培養し、さらに細胞内シグナル伝達分子阻害剤によって、ヒト筋線維芽細胞の増殖を抑制し、細胞形態が平滑筋細胞型になることを見出した。また、ヒト筋線維芽細胞にIV型コラーゲンの化学シグナルを与えることで、より一層の細胞伸長が誘導された。これはラミニン分子によっても誘導された。以上より、コラーゲンゲル器材による物理シグナル、IV型コラーゲンなど基底膜成分による化学シグナル、さらに細胞内シグナル分子の調節によって、ヒト筋線維芽細胞の形質を制御できることを明らかにした。
|