昨年度までの検討で、加水分解が起こる油状物質と起こらない油状物質の双方を用いた作成した油状微粒子内に水溶性のモデル薬が封入できることを確認した。そこで今年度の検討では、消化管内の環境を模倣してリパーゼを添加することによる油状物質の分解とそれに伴う薬の放出について議論した。その結果、今回用いたモデル薬は加水分解が起こらない油状物質に対して極めて高い分配比を示すことから、異なる油状物質間における議論は難しいということが分かった。さらに研究の初期段階でのオクタノール/水分配係数Pの計算結果を利用したlogPによる分類と、薬の放出についても異なるlogPをもつモデル薬で検討を行なったが、こちらについても薬と油状物質の組み合わせによってlogPの値から予想される溶解性とは異なる溶解性を示すことが多く、実験結果をlogPの計算値によって予測することも難しいことが明らかとなった。このような試行錯誤が続く中で研究代表は、今までに自身が行なってきた親水性薬物の油状分散技術に注目し、問題の解決を試みた。この油状分散技術の利用は本来であれば本研究によって最適な油状物質が選定された後に行うべきかもしれないが、上記のような状況により最適な油状物質を選定するためのモデル薬の選択が極めて困難であることから、研究をさらに前進させる形で、今まで経口投与が困難であった親水性薬物の油状物質への封入の検討を行うこととした。その結果、今までに前例のない加水分解されない油状物質であっても親水性薬物を70%以上の封入率で封入する方法を見出すことができた。これによって異なる油状物質であっても同一の方法で親水性薬物を封入することができることから、この検討を継続することによって油状物質を利用した経口デリバリーシステムにおけるメカニズム解明につながる可能性を見出すことができた。
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