研究課題
動物細胞浮遊培養を用いた物質生産において、医薬等の最終製品をより低コストに製造するには、最終到達濃度(現状10^7 cells/mL)の一層の高濃度化が有効であるものの、高濃度細胞培養時に、酸素を不足なく供給する技術はボトルネックとなっている。動物細胞は通気撹拌によるシェアに脆弱であることに加え、蛋白質濃度が高い動物細胞培地は泡立ちが激しく、通気速度には限界がある(経験的に0.05 VVM程度)。培養溶液中への酸素供給速度v (mg/L hr)はv = kLa (C*-C) 、ここでC*は飽和溶存酸素濃度(mg/L),Cは液中溶存酸素濃度,kLは液側の酸素移動容量係数(m/hr),aは単位液容積あたりの気液接触面積(m2/m3)、にて表され、本研究ではC*を高めるアプローチとして、人工酸素運搬体あるいは人工ヘモグロビンの活用について検討したい。まず前段階として、物質収支と速度論の観点で精緻な実験を可能にするスケールダウン実験条件(少ない液量で評価するため必須)を確立した後、サンプルの性能評価を行い、成績の良い素材については、社会実装への取り組みと、組織工学への展開へと進む。初年度は、スケールダウン系の構築・探索を進めた。一般に小型の培養槽は比気液界面積が大きく酸素供給能に優れる(kLaが大きい)ため、大型の培養槽(kLa=10-15h^-1程度)で発生する酸素律速を再現し難い。また現状の市販培地では細胞濃度10^7 cells/mL以上を実現する性能が無いため、これより低い細胞濃度で酸素律速を起こす系を確立して評価系とする必要がある。今年度は多面的に検討する中で、攪拌が緩やかな30mLサイズの市販リアクターで低いkLa=1~3h^-1が確認された。C*を低減させるなど複雑な機構を用いることなく、一般的な炭酸ガスインキュベーター内(通常酸素濃度)で評価が可能となった。
2: おおむね順調に進展している
スケールダウン系の構築・探索など、計画に沿って進捗することができた。
構築したスケールダウン系を活かし、通気や攪拌に寄らず高い酸素供給能を実現するためのアイディアの実現性について、評価を推進する。
計画的に消耗品費を活用した研究活動を推進した結果、端数が発生したため。次年度分と併せ、計画に沿って研究活動を推進する。計画に変更はない。
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Nature communications
巻: 12 ページ: 5059
Journal of Bioscience and Bioengineering
巻: 132 ページ: 417-422
10.1016/j.jbiosc.2021.06.016
巻: 131 ページ: 572-578
10.1016/j.jbiosc.2020.12.010
http://www.oit.ac.jp/bio/labo/~nagamori/index.html