本研究は申請者が開発してきた「タンパク質を化学修飾によりカチオン化することで生きた細胞内に導入する技術」において詳細が明らかになっていない導入原理を解明することを目的とした。初年度は、各種エンドサイトーシス阻害剤で処理した細胞に対する導入効率からカチオン化タンパク質の導入経路を調べた結果、クラスリンエンドサイトーシスが特に重要であることがわかった。2年目はカチオン性ペプチドによるタンパク質導入に細胞膜タンパク質Syndecan-4が関わっているという報告を受け、siRNAによりSyndecan-4の発現を低下させた細胞を用いてカチオン化タンパク質の導入効率を調べた。Syndecan-4の発現低下がカチオン化タンパク質の導入効率を低下させるという結果が得られ、カチオン化タンパク質の導入とSyndecan-4のかかわりが示された。 Syndecan-4の発現低下がカチオン化タンパク質の導入効率に与える影響が部分的であるという結果を受け、最終年度はさらにそのほかのカチオン化タンパク質の導入に関わる細胞表面タンパク質を探索するため、カチオン化タンパク質と結合する細胞表面タンパク質を調べ、100kDaおよび50kDa付近の分子量のタンパク質がカチオン化タンパク質に結合するものとして候補に挙がったが、残念ながら研究期間内に同定には至らなかった。 本研究を実施する過程で、変性状態でカチオン化したタンパク質は容易に、そして高濃度に濃縮できることが分かった。構造を保持したタンパク質は濃縮過程での容器への吸着や分子凝集により濃縮が困難であることが多い。そのことがタンパク質の担体等への高密度固定化が難しく、固定化が必要な用途への利用を制限していた。変性タンパク質に限るが、高密度うなタンパク質の固定化が可能になることで、本カチオン化技術が自己抗体に対する血液浄化担体等に応用できる可能性が示された。
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