研究課題/領域番号 |
21K04802
|
研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
櫻木 美菜 (水谷美菜) 崇城大学, 工学部, 准教授 (90646829)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 深共融溶媒 / 経皮デリバリー / 放射光X線散乱 / 角層 |
研究実績の概要 |
皮膚表面の角層は皮膚バリアとして機能するため、親水性物質や高分子は角層透過が難しい。薬剤の皮膚浸透促進キャリアとしてマイクロエマルション(ME)がよく用いられる。これまで申請者らは、塩化コリン-グリセリンが水素結合により自己会合した親水性の深共融溶媒(DES)が角質細胞間の脂質層の構造を乱し、薬剤の皮膚透過を促進することを示した。角層は疎水性のため、程よい疎水性のDESを用いることで更なる皮膚浸透促進効果が期待できる可能性がある。角層の水分量は、皮膚疾患の有無や年齢により異なり、その水分量によって角層中の脂質層が形成するラメラ構造の規則性の程度や層間隔が変化する。脂質層の構造特性が異なれば、DESの角層への浸透性や浸透経路も変化すると考えられる。本研究では、タンパク質の高効率な経皮デリバリーを目指し、疎水性DESに分散したwater in DES (W/D)型MEを用い、角層水分量、MEの構造特性に依存したMEの角層浸透機構を解明する。これにより、異なる肌の水分量に応じた、MEの最適な組成・構造を提案する。 2021年度は、皮膚浸透促進剤として優れたDESの組成を調べた。水素結合受容体にはテルペン類のl-メントールまたはチモール、水素結合供与体には炭化水素鎖の長さの異なる複数の種類の脂肪酸を用いて、角層成分への親和性の異なるDESについて検討した。その結果、l-メントールベースとチモールベースのDESで角層透過ルートや角質細胞間脂質の乱し方が異なり、l-メントールベースのDESは疎水性薬剤、チモールベースのDESは親水性薬剤の皮膚浸透促進剤として優れていることがわかった。一方で、作製した全てのDESは皮膚刺激性を有していたので、皮膚刺激性のない油状基剤と混合した溶媒を使って、MEを作製し、MEの構造特性と皮膚浸透性について評価した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数種類の疎水性DESを作製し、角層との作用機構を明らかにした上で、皮膚浸透促進剤として用いるのに適したDESを提案し、論文を投稿するに至った。しかし、論文は不採択となったため、論文を再度見直して文章を手直しし、別のジャーナルへ投稿中である。また、疎水性DESを添加したMEの構造特性と皮膚浸透性の関係性を明らかにし、論文を投稿したが、こちらも不採択となり、現在次の対策を考えているところである。論文受理には至らなかったが、データをまとめ論文2報を投稿するまでは達成できたため、(2)を選択した。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度中に、現在仕上がっている論文が受理されることを目標とする。また、今年度はD/W型MEの角層透過機構における角層水分量の影響について、検討を進める予定である。具体的には、湿度調節器を用いて、湿度条件コントロール下で各組成のMEの皮膚透過試験を行い、角層透過性が高い時の角層の水分量、MEの構造を明らかにする。MEの内相にはモデル薬剤として親水性の低分子薬剤や、蛍光ラベル化したタンパク質を用いる予定である。 次に、異なる水分量を持つ角層に、各組成のMEを適用したときの、角層成分・MEの構造変化をX線散乱にて追跡する。さらに、重水素からの散乱を際立たせて検出できる中性子散乱測定も実施し、重水素化したMEの角層中における構造変化を解析し、X線散乱のデータと合わせて考察する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染拡大の影響で、SPring-8の実験の研究協力者として同行させたい学生の人数を絞ったこと、学会がオンラインでの開催であったことから、旅費使用料が少なくなった。R4年度はオンサイトでの学会も開催される予定であることから、オンサイト会場にて発表し、直接他の研究者と交流し、研究に関する意見交換を行いたい。SPring-8の測定は、複数人で協力しつつ限られた時間でデータを得る必要があるため、コロナの状況が良ければ研究遂行に必要な人数を同行させたいと考えている。
|