研究課題/領域番号 |
21K04807
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
山田 哲也 信州大学, 学術研究院工学系, 助教 (80623735)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フラックス法 / 結晶成長 / 窒化ホウ素 / データ駆動化学 |
研究実績の概要 |
本研究では,六方晶窒化ホウ素(h-BN)をモデル化合物として,フラックス法結晶育成による結晶外形変化の影響因子を理解し,その成長モデルを構築することを目的としている。本年度では①第一原理計算による結晶成長に関係するエネルギー情報取得と②機械学習による因子分類提案と検証実験提案を進めた。 はじめに、第一原理計算よりホウ酸イオンのh-BNへの吸着特性を求めた。BO3イオンを吸着させたところ、ジグザグ・アームチェア構造の両方で、h-BNの001面よりも100面にBO3イオンが吸着する場合にエネルギー安定化が見られた。この傾向はホウ酸イオンをB2O5およびB4O7に変更したときも変わりがなかった。ただし、B4O7イオンの吸着では立体障害が働き、エネルギー安定化の障害となることが分かった。今回、h-BNへのホウ酸イオン吸着時の局所構造・電子状態が明らかとなったため、溶質―溶媒相互作用に由来するエネルギーを求めることが可能となった。得られたエネルギー情報は、今後の機械学習解析の影響因子候補として利用できる。 次に、機械学習解析により結晶成長の影響因子候補の抽出、およびそれをもととした実験提案に取り組んだ。フラックスの構造・物性情報といった30種の特徴量を説明変数、h-BNのc軸粒径・結晶アスペクト比を目的変数として回帰モデルを作成した。得られたモデルを使って、各因子の寄与度を可視化したところ、カチオン配位数,格子定数,カチオンーアニオン間の距離といった変数が比較的重要度が高いことが分かった。加えて、実験プロセスを説明変数、h-BN結晶情報を目的変数としたベイズ最適化実験計画システムの作成と、それを用いた4万条件ほどの実験条件提案にも成功した。今回見出した影響因子候補や機械学習アルゴリズムは、今後の成長モデル構築に向けた実験検討に利用可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は以下2つの研究計画を立て、実施してきた。以下の通り、各項目を50点満点で自己評価する。 ①第一原理計算による結晶成長に関係するエネルギー情報取得:概ね計画通り(40点/50点満点) 今年度DFT計算に取り組むことで、フラックスとh-BNの吸着状態の局所構造と電子構造が求められ、目標としたフラックス吸着エネルギーの取得ができたと考えている。一方で、このほかの計算取得可能なエネルギーの計算・抽出は次年度以降の課題となる。 ②機械学習による因子分類提案と検証実験提案:計画通り(50点/50点満点) 学習データを使って回帰モデルを作成することで、h-BNの結晶成長因子の候補提案ができた。また、任意のh-BN結晶成長を制御するためのデータ駆動実験計画法のアルゴリズムを作り、4万点ほどの結果予測までできた。 以上のことから、評点を90点/100点満点とした。
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今後の研究の推進方策 |
概ね計画通り研究が進んでおり、当初の予定通り研究を実施していく予定である。具体的には、提案された因子をもとに、データ駆動によるフラックス法結晶育成実験を実施する。この際には、既存の学習データに用いていないフラックスを積極利用する実験を繰り返すことで、既存実験空間からの脱却と、それに伴う大域情報の獲得を狙う。こうして得られた学習データより、因子の影響分類を進めて、最終目的である影響因子理解と成長モデル構築につなげる。 一点、結晶情報の数値抽出に課題があることが分かった。これまで電子顕微鏡像からの数値取得をしてきたが、取得情報に主観性や誤差があることが分かった。より客観的情報取得を目指し、機械学習画像解析を用いた数値取得を検討していく。
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