研究課題/領域番号 |
21K04810
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
齊藤 結花 学習院大学, 理学部, 教授 (90373307)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 半導体ナノ粒子 / 酸化亜鉛 / フォトルミネッセンス / 紫外分光 / 励起子 |
研究実績の概要 |
半導体ナノ粒子の中でもワイドギャップ半導体材料は、発光素子や高効率な太陽電池への応用も期待されている。量子ドット以上の大きさのナノ粒子には個体差があるため、試料の集団平均を測定するかわりに"単一ナノ粒子"を観測することで、よりシャープで的確な物性測定ができる。単一ナノ粒子の電子状態はこれまでにも研究されているが、その知見は主に可視域の分光に限られている。本研究では走査プローブ顕微鏡加え、これまで当研究室で開発してきた紫外散乱分光およびフォトルミネッセンス分光の技術を駆使して、個々の半導体ナノ粒子の形状および電子状態の個性を明らかにすることを目的としている。フォトルミネッセンスは冷却すると格子振動の影響が抑えられ、スペクトルの感度が向上することがわかっている。本年度は室温から77kまで冷却することのできる試料セルを導入して、低温測定を実施した。酸化亜鉛(ZnO)単一ナノ粒子および単一凝集体について、個々のナノ粒子の紫外フォトルミネッセンススペクトルを取得した。ZnOナノ粒子の発光は、エキシトン由来の発光と欠陥構造に由来する発光が観測された。室温測定に比べて低温測定では、粒子の発光スペクトルの違いはより顕著に現れた。とくに束縛励起子、自由励起子及びドナーアクセプター遷移の強度比はいくつかのパターンに分類されることが分かった。これは個々のナノ粒子を構成する結晶面、また欠陥分布の違いに由来すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フォトルミネッセンスは冷却すると格子振動の影響が抑えられ、スペクトルの感度が向上することがわかっている。本年度は、自作の紫外顕微システムに、室温から77kまで試料を冷却することのできるセルを導入して、低温測定を実施した。試料セルは液体窒素を導入した銅のプレートに試料を接触させて真空中で測定することで、低温測定を実現している。対物レンズをできるだけ試料を接近させるため、動作距離が短くなる配置に設計した。室温との温度差による試料セルウインドウの曇りを除く仕組みを追加した。その結果、ZnO単一ナノ粒子および単一凝集体について、個々のナノ粒子の紫外フォトルミネッセンススペクトルを、低温で取得することに成功した。顕微鏡下単一ナノ粒子について、400ナノメートル以下の紫外域で温度変化を測定した例はなく、半導体材料の応用のみならず基礎物性科学的にも重要な知見が得られたと考えている。昨年度の研究結果については、現在論文投稿中である。以上の理由から研究は概ね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで行った単一ZnOナノ粒子の低温測定から、個々のナノ粒子からのフォトルミネッセンスは粒子によって大きく異なることがわかった。半導体ナノ粒子のフォトルミネッセンスは、大きく分けてエキシトン由来の発光と欠陥構造に由来する発光がある。我々が今回用意したZnO試料は、どちらの発光も粒子によって異なっているが、とくにエキシトン由来の発光は低温でいくつかの特徴的なスペクトルパターンを示すことがわかった。今年度は、低温測定を実施するのみならず、各粒子の温度変化を室温から液体窒素温度まで詳細に記録することで、エキシトン発光の各ピークの帰属を確実に行うことを最初の目標とする。次に分光測定を行ったナノ粒子と同じ粒子を試料セルから取り出して、走査型プローブ顕微鏡でその形状の詳細を観察することで、粒子形とスペクトルの相関を議論する。 最後に、化学合成でZnOナノ粒子を作成し、焼結を経ずに結晶度の低い状態の試料を用意する。この試料について同様の実験を行い、スペクトルと結晶化度の相関を議論する。
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