研究課題/領域番号 |
21K04814
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
宝田 徹 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (30336010)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 核酸 / DNA / ナノ粒子 / 自己組織化 / 透過型電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
異種ナノ粒子の2次元アレイは、太陽電池やセンサーへの応用が期待されている。本研究では、これらの製造技術になることを目指し、異種粒子の自己組織化法を開発している。原理として、短鎖DNAで覆われた粒子が示す特異なコロイド挙動を用いる。一本鎖DNAで覆われた粒子は、高塩濃度条件でも安定に分散するが、完全相補鎖を加えて粒子表面のDNAを二重鎖にすると、粒子は直ちに凝集する(非架橋型集合)。この集合はDNA末端の塩基対構造に強く依存し、DNA層の最表面に一塩基ミスマッチがあると粒子は安定に分散する。そこで本研究では、完全相補と末端ミスマッチの二重鎖DNAで被覆された粒子を、反復配列をもつ一本鎖DNA(鋳型DNA)に交互に結合させ、これに非架橋型集合による折りたたみを誘起して、基板上に異種粒子の2次元アレイを構築する。 本年度は、大小2種類の金ナノ粒子(粒径5 nmと15 nm)を交互に配置した2次元アレイの作製を試みた。まず、各粒子を鋳型DNAに固定するために、粒子表面に固定用DNA(60塩基)を結合させた。粒子1個あたり厳密に1本の固定用DNAを担持させ、さらに粒子表面を集合用DNA(15塩基)で高密度に修飾した。次に、繰り返し配列をもつ長い鋳型DNA(10,000塩基以上)をローリングサークル増幅法で合成し、これに大小2種類の金ナノ粒子を、固定用DNAを用いて交互に結合させた。集合用DNAの相補鎖と末端一塩基ミスマッチ鎖を加えて二重鎖にしたあと、平面基板上で試料溶液を乾燥して透過型電子顕微鏡で観察した。画像解析の結果、平均300個以上の粒子で構成された2次元アレイが自発的に生成することが明らかになった。一方で、アレイを構成する大小粒子の数比は1:1から著しく外れた。原因として、鋳型DNAから各粒子が一部解離したことが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画通り、大小2種類の金ナノ粒子で構成される1次元集合体を前駆体として作製した。粒子の数比や、粒子の全濃度、共存塩の種類と濃度、反応温度、反応時間を最適化するとともに、平面基板上での試料溶液を乾燥する際の手順と操作時間についても条件検討した。非架橋型集合を誘起して得られたナノ粒子アレイは、その構成粒子数が平均300個以上であり、鋳型DNAを用いないとこのような大きさのアレイは生成しないことから、作業仮説に矛盾せずに、前駆体の1次元集合体が折りたたまれて2次元アレイを与えることが実証された。しかし上述したように、2次元アレイを構成する大小粒子の数比において1:1からの著しいずれが認められ、前駆体である1次元集合体が、設計通りの完全体として作製できていないことが示唆された。この予想原因を踏まえて、固定用DNAの鎖長の延長や、粒子を鋳型に固定する反応(DNA二重らせん形成反応)の条件検討を行ったが本年度内に改善できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
設計通りの完全体である1次元集合体(ナノ粒子ポリマー)を作製するために、(1)固定用DNAの長さと塩基配列、(2)鋳型DNAと固定用DNAの二重鎖形成の反応条件、を再検討する。(1)に関しては、鋳型DNAにおける固定用配列間の長さ(スペーサー長)についても最適化を行う。(2)については、全粒子濃度、鋳型DNA濃度、反応温度、反応時間について検討する。 上記の結果、長鎖の鋳型DNAへの固定化反応が不完全にしか進まなかった場合は、計画を変更してナノ粒子オリゴマー(2量体または3量体)を前駆体に用いることにする。これまで前駆体に用いてきたナノ粒子ポリマーと、新しいナノ粒子オリゴマーの最大の違いは、オリゴマーについてはゲル電気泳動による精製法が確立されていることである。アガロースゲル電気泳動法によって所定のナノ粒子オリゴマーを分離抽出することにより、完全体の前駆体のみから2次元アレイを構築することが原理的に可能である。同一サイズの金ナノ粒子からなるオリゴマーのゲル分離精製については、すでに手法を確立して論文発表をしており(Small, 2015, 11, 3153)、サイズの異なる粒子(粒径5 nmと15 nmの金ナノ粒子)からなる2量体または3量体についても、同様に分離精製できることを予備実験で確認している。分離精製されたオリゴマーは完全体なので、これらが非架橋型集合して与える2次元アレイは、ナノ粒子ポリマーの折りたたみで得られるアレイよりも正確な粒子数比を示すことが期待できる。最終的にはこの方法論を、金ナノ粒子と量子ドットからなるヘテロなナノ粒子オリゴマーへと展開し、異種ナノ粒子の2成分2次元アレイを構築して光学的性質を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた理由は2つある。1つは、本年度から研究代表者が所属研究室を移籍し(前所属研究室が改廃)、新しい実験場所を確保するのに時間を要したために、実験開始時期が遅れたことである(その間、DNAの塩基配列設計や反応条件の検討を実施)。もう1つは、上述したように本年度は同一粒子(金ナノ粒子)の2次元アレイ作製の条件検討に専念したため、異種粒子(量子ドットなど)を購入して使用するのを次年度に遅らせたことである。生化学用試薬、粒子調製用試薬、プラスチック器具、ガラス器具、TEMグリッドなどの物品費(試薬・消耗品)として次年度に使用する予定である。
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