研究課題/領域番号 |
21K04831
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岩堀 健治 大阪大学, 工学研究科, 助教 (90467689)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 結合ペプチド / フェリチンタンパク質 / 遺伝子変異タンパク質 / 炭素欠陥 |
研究実績の概要 |
初年度の研究については当初の研究計画に従い、まずカーボンナノチューブ表面に選択的に結合するペプチド配列のデザインと合成を行った。さらに作成したペプチドのカーボンナノチューブへの結合を確認するために透過型電子顕微鏡(TEM) による観察をおこなった。カーボンナノチューブに結合するペプチドは、今までの研究で候補ペプチドがいくつかあり、その中からセレクションを行い現在までに 3 種類の 10 ~15 残基の候補ペプチドを人工合成した。このペプチドをカーボンナノチューブと混合して TEM 観察を行うと、大量のペプチドを添加した場合、カーボンナノチューブの周りを覆っている様子は確認できた。しかし結合部位等の詳細な観察は難しかったため、従来の研究で電子顕微鏡観察に成功している、直径 12 nm の球殻状タンパク質(フェリチンタンパク質)の外殻表面に突出している N 末端アミノ酸配列部分に候補ペプチドを修飾したCNT 結合バイオナノ粒子 (DS-BNPs) の作成を行った。 このバイオナノ粒子を CNT と混合し、200kV の加速電圧により TEM 観察をすると、カーボンナノチューブ表面に結合している部分と結合していない部分が観察された。特にペプチド A については以前と同様な追試結果が観察された。しかし、作成した 3 種類のペプチドに関して結合の様子にはそれほど差違が見られなかったため、現在はさらなる新規ペプチドのデザインとフェリチンタンパク質外表面への修飾を行っているところである。 また、ペプチドとカーボンナノチューブの結合を迅速に進めるために、電子顕微鏡観察だけではなく、水晶振動子 (QCM) による CNT 結合力測定の方法を確立するために該当するカーボンをスパッタすることにより QCM 電極の作成も開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カーボンナノチューブに結合するペプチドのデザインと合成は問題なく実施できている。またフェリチンタンパク質の外殻への修飾については、遺伝子発現を用いた従来法で行っており、本法は CNT 結合ペプチド以外の他のペプチド修飾の経験も豊富にあるため実験手法的には問題なく進行している。 現在までのところカーボンナノチューブに結合しているように見える部分と結合していないように見える部分が観察できる CNT 結合ペプチドの取得に成功しており、それぞれのアミノ酸配列を変更することでペプチド配列のバリエーションを増やす事と、カーボンナノチューブの種類による結合力の違いの確認や測定の可能性の検討を行っているところであるので、本研究は概ね計画通りに順調に進んでいるものと考えられる。また、現時点ではそれぞれ合成したペプチドの結合力に大きな差違が見られないのが残念だがこれも想定の範囲内であり、当初から候補ペプチドの種類を10数種類まで増やしていく予定であるので、現時点ではそれほど大きな支障はないと思われる。 ただ、電子顕微鏡観察 (TEM) によるペプチド結合の評価については、ペプチドを修飾したフェリチン(Ds-BNPs) の作成に思った以上に手間と時間がかかっており、この方法と並行しながら申請書にも検討課題として記載してあるカーボンナノチューブを塗布した QCM 電極を作成し、遺伝子変異とフェリチンタンパク質を介さない QCM による評価方法を確率すれば、さらなる研究のスピードアップが見込まれると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、候補ペプチドのアミノ酸配列のバリエーションや長さ等を変えることでカーボンナノチューブへ結合するペプチド、結合しないペプチドや中間の結合力を持つペプチド等、様々なペプチドのデザインと合成を行う。候補ペプチドのバリエーションを増やし、各々の比較検討を行うことで、カーボンナノチューブに結合しにくいペプチドはなぜ結合しにくいのか?あるいは結合しやすいものはなぜ結合しやすいのかという根本的な原因を探ることを一つの大きな目標として実験を進める。 また、上記の進捗状況の欄でも記載したように、本実験にはある程度の候補ペプチド数とその実験結果、データや考察等の総合的な知見の集積が重要なため、 特に候補ペプチドのカーボンナノチューブへの迅速な結合力測定と比較は非常に重要となると考えられる。そこで、今までの遺伝子工学的手法による CNT 結合バイオナノ粒子 (DS-BNPs) の作製と電子顕微鏡観察の手法を組み合わせによるペプチドの結合観察を進めながら、表面にカーボンナノ膜が存在する QCM 電極を、スパッタリングによる塗布や積層により作成する新しい電極プロセスの導入も進め、候補ペプチドがカーボンナノチューブへの結合する様子が QCM によって簡単、迅速に測定できるような新規の実験手法の構築も進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はコロナ禍の影響もあり、学会や研究打ち合わせ等の旅費を積極的に活用することができなかった。また、測定機器や分析装置については、幸運にも研究場所に既に設置、メンテナンスされた機器、装置類がいくつかあり、それらを使用することができるようになったため、自前での購入、メンテナンスや調整等をする必要がなくその点で非常に助かった。また QCM 電極の作製については専門の企業での作製を予定し費用の検討も行ったが、コロナ禍における素材、材料不足の影響もあり、作製や大量購入が難しくなっていたため高価な消耗品類を使用することが不可能な状況もあった。これらの原因により総じて次年度使用額が生じることとなった。 次年度については、当初の研究計画にあるタンパク質、カーボンナノチューブ、遺伝子関連試薬等の実験消耗品の購入に加えて、特に電子顕微鏡観察による確認方法の並行に進めることとなる QCM 電極法に用いる QCM 電極の自前作製費用とその測定方法を検討をするための実験器具の購入等のためにより多くの研究費を使用する予定であるとともに、学会や研究打ち合わせのための旅費や論文作製や投稿のための費用等に積極的に使用する予定である。
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