研究課題/領域番号 |
21K04837
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
本山 幸弘 豊田工業大学, 工学部, 教授 (20283492)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 金属錯体 / 金属クラスター / 不均一系触媒 / 水素化 / ヒドロシリル化 |
研究実績の概要 |
ナノサイズの担持型金属クラスター触媒は持続可能な社会の発展を支える化学という観点から環境調和型物質製造プロセスを実現する鍵となっているが,さらなるクラスターサイズの制御による活性や効率の向上,新たな機能の開拓が望まれている. 本研究では,現在広範に研究されているナノサイズより小さな,いわゆるサブナノサイズ(1 nm以下)の金属クラスターに着目し,その前駆体となる金属錯体の精密設計を基盤とした錯体化学的アプローチによるサブナノクラスターの発生・担持法の確立,分析化学と精密有機合成化学の両面から担体構造と触媒機能の相関を解明する基礎科学研究,さらに実践的なもの創りを実現しうる不均一系触媒反応へと展開する応用研究を行い,最終的に様々な分野への活用も期待される金属サブナノクラスターの新たな設計指針の提供と新規な触媒的物質変換反応の開発を目的としている. 初年度は,まず金属酸化物であるZrO2上にPd錯体を担持したのちに担体上でクラスター形成し,得られたPd/ZrO2の触媒機能を検証した.その結果,水素化反応において2価のPd(OAc)2から常温・常圧で形成するクラスターが特異な官能基選択性を示すことを見出し,カルボニル化合物をアルキル化剤とする還元的なアミンのアルキル化が高効率で進行することなどを明らかにし,論文発表を行った.さらにN,O-2座型の配位子を有する新規な4種のPd錯体を合成した結果,いずれも水素化活性を示すこと,配位子構造が触媒活性や官能基選択性に大きく影響していることを見出した. また,ヒドロシランから溶液中で発生する可溶性Pdサブナノクラスターの活性炭への固定化手法を確立し,その水素化触媒機能を検証した.その結果,対応するナノクラスターと比較して,一般的な多重結合の還元反応では触媒活性が低いこと,さらに触媒被毒を受けやすいことから基質依存性が高いことを見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,サブナノクラスターの触媒機能について,対応するナノクラスターとの比較を精査することを目標とした.まずヒドロシランから発生する可溶性ならびに活性炭担持Pdサブナノクラスターは,反応剤としてヒドロシランを用いたアミドやエステルの還元反応では高い触媒活性を示すものの,水素化反応においては担持型クラスターの触媒機能が劇的に変化するという重要な知見が得られたことは,大きな成果であると考える. Pd(OAc)2からZrO2上で形成させたPdクラスターは還元的なアミンのアルキル化反応の優れた触媒となるが,その詳細な構造解析の結果,ナノサイズにまで成長したものが多くを占めていることが示唆された.ところが新たに合成したN,O-2座型の配位子を有する4種のPd錯体から形成されたPdクラスターは,活性炭上に担持したPdクラスターと似た触媒機能を示していることから,これらはサブナノクラスターが生成している可能性が高いと考えている.この結果から,ZrO2上でのサブナノクラスターの発生法を幸運にも見つけることができたかもしれず,今後の研究が加速できるものと考える. 一方で,現在試みた水素化反応におけるサブナノクラスターの触媒機能はそれほど高くないことから,どのようなは反応に適しているのかをスクリーニングする必要があり,反応基質の拡張が最重要課題の1つとして挙げられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず,新たな錯体からZrO2上で形成させたPdクラスターの構造解析を行い,サブナノサイズが形成しているかどうかを明らかにしていく. また,これらの錯体を用いてZrO2と同様に活性炭上でのクラスター化を検討し,水素化反応における担体と触媒機能の相関,ならびにPdサブナノクラスターに特異的な反応の探索を行う. さらに金属種をPdから同族のPt,ならびに9族のRhやIrなどへと拡張していくための予備的実験として,前駆体錯体の設計・合成と担体上への固定化からクラスター化についても,検討を開始する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入予定であった核磁気共鳴装置用の重溶媒(海外製)が,社会事情により年度内に納入できなくなったため. 残額は,22年度に国内製の重溶媒購入費にあてる.
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