研究課題/領域番号 |
21K04840
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
三苫 伸彦 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (90768673)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ナノカーボン / π共役系高分子 / 湾曲構造 |
研究実績の概要 |
近年、端部構造が原子レベルで精密制御された一次元物質であるグラフェンナノリボン(GNR)を有機合成により得ることができるようになったが、それらはいずれも嵩高い親溶媒性置換基を有しており、GNR本来の電子物性が覆い隠されてしまう問題を抱える。そこで本研究では湾曲構造を有し、それ自身が高い親溶媒性を有する七員環や八員環から成る芳香族化合物に着目する。これを一次元的に連ね、置換基を持たないπ共役系高分子である「ワープドナノリボン(WNR)」の合成を行う。WNRは高い溶解性のみならず、歪んだ構造に由来する固有の電気的・光学的性質を示すと期待され、破格の物性実現を目指す。 本年度はWNRの合成に取り組んだ。当初はピナコール転移により、六員環を七員環へと変換し、同時にπ共役系を拡張する反応を検討していたが、得られた前駆体が非常に酸化されやすく、不安定であるという問題に直面した。他にもπ拡張によりポリマー鎖長を伸長する試みを行なったが、分離や精製を行うことができなかった。種々の検討を経た結果、七員環を含有する分子であるジベンゾアゼビンを単結合により重合できる反応を発見した。MALDI-TOF MSによる実験結果から、10量体まで重合することを確認できており、当該オリゴマーは各種溶媒への溶解性も良好であるため、現在、精製プロセスの確立を試みている。今後は合成条件をさらに検討することで、10量体よりも大きな鎖長のポリマー合成を試みる。また、ショール反応などにより、単結合をπ共役へと拡張し、歪んだ一次元π共役系高分子を合成する。これをデバイス加工することにより、電気的・光学的特性の評価を行う。外部磁場や熱に対する電子状態の変化にも着目する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述のように、当初計画していた方法では高分子の前駆体となるモノマーが不安定であるという問題が発生し、安定に存在できる高分子を探し出すまでに時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
ショール反応は良く知られた反応であり、今後は反応条件を最適化することでπ拡張反応へと繋げられる。酸化に用いる触媒や温度条件、精製方法などの最適化を検討する。 π拡張反応によるポリマー合成の試みは良好な結果が得られていないものの、幾つかの新奇分子群が得られており、それらの物性に関する調査も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究所内でのリサイクルにより、無償にていくつかの実験試薬や装置を入手できたために次年度使用額が発生した。単結合とπ共役の違いを見分けるには分子の振動モードを測定することが有効であるため、本年度に分光装置の購入を検討している。
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