研究課題/領域番号 |
21K04844
|
研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
田中 秀吉 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所神戸フロンティア研究センター, 研究センター長 (40284608)
|
研究分担者 |
鈴木 仁 広島大学, 先進理工系科学研究科(先), 准教授 (60359099)
富成 征弘 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所神戸フロンティア研究センター, 研究員 (90560003) [辞退]
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | グラフェン / CVD / 基板上反応 / テンプレート / SPM |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、申請者がこれまでに開発してきた「テンプレーティングCVD法」を足がかりとし、複数種の金属触媒からなるハイブリッド型テンプレート構造によって触媒金属上にて進行するグラフェン形成プロセスを精密にコントロールすることにある。この技術を開拓することで、デバイス構造作製に際してグラフェンの物性を損なう要因となる転写や加工プロセスを用いることなく絶縁基板上にグラフェン回路やグラフェンナノ構造を直接かつ精密に作り込んで電極に接続する「転写レス微細グラフェン回路作製法」の有用性を確認、原理実証する。この手法では、CuとNiからなるテンプレートをそれぞれ同一基板上に作り込み局所的に合金化するプロセスが重要となる。これまでに、リフトオフプロセスを駆使することにより1mmから0.01mmまでの線幅のCu薄膜微細パターンを石英基板上に作製することに成功しているが、今年度は同様のパターンをより良質なCu成膜およびCVDプロセスが可能なサファイア基板上に同様のパターンを作成した。その結果、すべての線幅について再現性良く所定のテストパターンの形成に成功した。一方、Ni薄膜微細パターンについては作成条件の最適化が当初の計画どおりに進んでおらず、制御性を改善するための実験を引き続き実施しているところである。さらに、テンプレート上に形成されるグラフェンシートの物性制御に繋がる手法の高度化にも努めた。具体的には、Cu(111)、Au(111)それぞれの表面上にて進行するテトラブロモビフェニル分子によるグラフェンメッシュ構造のボトムアップ形成プロセスをSPMによって詳細に観察、比較し、下地基板種の違いによって重合反応がどのような影響を受けるのか詳細に調べた。この成果はテンプレート上グラフェンの局所物性や形成メカニズムが触媒基板の種類によって異なることを示唆しており重要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題ではCuとNiの微細パターンを同一のサファイア基板上にそれぞれ作製し組み合わせることがポイントなる。Cuについてはリフトオフプロセスを駆使することで当初想定していた精度にてテンプレート作製できる目処がたったが、Niについては昨年度退職した研究分担者が開発したリフトオフプロセスの技術継承、再現に時間を要している。理由として、2023年度に当該課題を実施している研究施設に大規模な改修工事が発生したことが挙げられる。この工事は2023年度内に完了しており、今後は速やかに実験を再開しNiによるテンプレートの作製技術の継承とプロセス条件の最適化を完了したいと考えているが、CuとNiを組み合わせたテンプレートの作製が順調に進んでいないことを踏まえ、総合的な進捗としては「(4)遅れている」という状況にある。
|
今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、現在急ぎ取り組んでいるNiテンプレート作製条件の最適化を早急に完了させ、後熱処理によるCuNiテンプレートの熱処理条件最適化および、CVDプロセス後のCuテンプレート部分の除去条件最適化に取り組み前年度の遅れを取り戻す。また、これと並行して、精密制御が難しいNi蒸着プロセスの簡略化に向け、Cu薄膜にて形成したテンプレート上に局所的にNiを追加蒸着する方法も試みる。併せて、CuNi合金上に形成されるグラフェンシートの物理的特性の詳細やテンプレート除去後のグラフェンシートの安定性、電気的接続状況の評価等について一連のSPM観察や分光学的測定、回路特性取得等によって詳細に評価する。それらの知見をとりまとめることで、本研究の達成目標である「転写レス微細グラフェン回路作製法」の有用性を確認、原理実証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2023年度に実施された改修工事により、研究課題の実施に不可欠なクリーンルーム施設が十分に使用できなかったことから、昨年度に退職した研究分担者が開発したファインプロセスに関する技術の承継が計画通りに進まなかった状況を踏まえ、研究実施期間を一年間延長したうえで計画の一部を次年度に先送りした。そのため、2023年度中に使用する予定であった予算を2024年度に繰り越したうえで研究資金として使用することとなった。
|