研究課題/領域番号 |
21K04845
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研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
福山 祥光 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 研究員 (20332249)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ナノ構造物性 / 微粒子トラップ / X線回折 |
研究実績の概要 |
近年、金属ナノ粒子の特異な構造や光学特性が注目されており、その特性は結晶サイズ、装置や粒子同士の接触、粒子が分散された環境(溶媒)に強く影響されることが知られてきた。しかし孤立した金属ナノ粒子1粒に対する測定では確立した試料保持法がないために困難を極めている。本研究では、ラゲール・ガウスモード(LGモード)のレーザーを用いて金属ナノ粒子1粒をトラップし、放射光X線マイクロビームを照射することにより、金属ナノ粒子1粒のX線回折像を測定する。また、小型分光器を用いて金属ナノ粒子1粒の光学特性を同時に測定する。金属ナノ粒子1粒の接触効果・粒径・結晶構造と光学特性の関係を明らかにし、従来の多粒子に対する測定では得られなかった情報を得る。 試料粒径が1μm以下の金属ナノ粒子1粒のX線回折実験は、世界的に見ても前例がない。本研究の第一の目的は、LGモードのレーザーによる光トラップを用いて、粒径100nm以下の金属ナノ粒子1粒を非接触に保持し、X線回折測定と分光計測を同時に行う手法を確立することである。第二の目的は、確立した手法を用いて多種多様な金属ナノ粒子1粒の接触効果・粒径・結晶構造と光学特性の関係を明らかにすることである。 本研究では、空気中においてLGモードのレーザー光を用いて金属ナノ粒子1粒のトラップを実現し、このトラップされた粒子に対するX線回折装置を開発する。金属ナノ粒子は断面の強度分布がドーナツ状のLGモードのレーザー光とプラグ用レーザー光で捕捉する。トラップ用のLGモードのレーザー光は、波長532nmのエルミート・ガウスモード(EGモード)のレーザーの出力をボーテックスレンズでモード変換して生成する。研究の後半では、ファイバー入力式小型分光器を用いて、空気中での様々な金属ナノ粒子1粒の粒径・結晶構造と光学応答の関係を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度には、金属ナノ粒子1粒のトラップを実現するためのLGモードのレーザー光とトラップ装置を作成した。屈折が支配的な誘電体ナノ粒子は光電場の強い方向に引かれるため、EGモードのレーザー光をレンズで集光することにより、その焦点に粒子を捕捉することが可能である。一方、反射が支配的な金属ナノ粒子では、光の輻射圧が斥力となるために、EGモードのレーザー光では粒子を捕捉できない。本課題では、断面の強度分布がドーナツ状のLGモードのレーザー光とプラグ用レーザー光で粒子を捕捉した。トラップ用のLGモードのレーザー光は、波長532nmのEGモードのレーザーの出力をボーテックスレンズでモード変換して生成する。金属ナノ粒子を長時間安定にトラップするためには、LGモードの安定性が重要である。安定性を確保するために、入力レーザー光(EGモード)の発散角、入力レーザー光とボーテックスレンズの相対位置や角度を精密に調整し安定化させる光学系を開発した。現在は、整備したLGモードのレーザー光を用いて、金属ナノ粒子1粒に対するトラップ条件の最適化を行っている。また同時に、トラップした金属ナノ粒子1粒に放射光X線マイクロビームを照射しX線回折像を測定するための装置も開発している。
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今後の研究の推進方策 |
金属ナノ粒子1粒に対するトラップ条件の最適化とX線回折像を測定するための装置開発を完了させ、ファイバー入力式小型分光器を用いた発光分光計測システムを構築する。 金属ナノ粒子1粒からの発光を効率よくかつ余分な迷光の排除して分光器に導くために、マイクロスコープを改良した集光光学系を開発する。開発した集光光学系とファイバー入力式小型分光器を組み合わせて、微小領域の発光分光計測システムを構築する。この発光分光計測システムには市販のマイクロスコープを改良した光学系が含まれるために、感度に波長依存性が必ず存在する。この波長依存性を除去するために、標準発光体を用いて波長に対する感度校正を行う。 金属の種類によってトラップ用レーザー光の最適な波長は異なる。そのために様々な金属ナノ粒子のトラップを実現するためにはトラップ用レーザー光の多波長化が必須である。本研究では、現有する波長1064nmのレーザーでもトラップを実現する。このレーザーもEGモードなので、ボーテックスレンズを用いてLGモードに変換する。複数波長のトラップを利用することにより、空気中での様々な金属ナノ粒子1粒の粒径・結晶構造と光学応答の関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
光学ステージの購入を予定していたが、コロナウイルスによる欠品により当該部品の購入ができなかった。光学系を購入可能な光学ステージに変更し、本年度に購入することを予定している。
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