研究課題/領域番号 |
21K04848
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
中村 ゆきみ 新潟大学, 脳研究所, 助教 (70377208)
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研究分担者 |
鈴木 雄治 新潟大学, 脳研究所, 准教授 (90529851)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アクアポリン / フッ素18 / 陽電子放出断層撮影 |
研究実績の概要 |
本研究では様々な疾患への関与が明らかになってきたアクアポリン(Aquaporin; AQP)を陽電子放出断層撮影(Positron Emission Tomography; PET)画像を用いて解析を行うためのフッ素18標識の薬剤を開発することを目標としている。 PET用AQPイメージング薬剤としては既に炭素11で標識された[11C]TGN-020を申請者らが開発しており臨床研究も行ったが、炭素11の半減期が短い(約20分)等の理由がAQP画像化の普及・発展の妨げであると考えられるため、フッ素18(半減期は約110分)を用いた薬剤によるAQP画像化法の確立を目指す。 本年度はまずコンピューター上で既存の化合物データベースのスクリーニングを行い、塩素原子とフッ素原子の置換反応によりフッ素18での標識が可能な位置にフッ素原子を含み、さらにターゲットとしているAQPに対して選択的かつ強力に結合する候補化合物の選別を行った。 アフリカツメガエルの卵母細胞にmRNAを注入することによりヒト型AQPを発現させると、発現したAQPの作用により卵母細胞は急速に吸水し膨潤して破裂してしまう。またAQPに選択的かつ強力に結合する化合物は多くの場合にAQPの構造の特徴的な部位に結合するため、その化合物が結合したAQPは水チャネルとしての機能を失ってしまう。これらの性質を利用し、候補化合物を溶解した水中にヒト型AQPを発現させたアフリカツメガエルの卵母細胞を入れ、その膨潤が阻害される程度を調べてそれぞれの化合物ついて評価、検討を行った。 本年度ではAQP4に対して選択的に結合する化合物について選別、合成、アフリカツメガエルの卵母細胞を用いた実験により評価を行い、TGN-052と名付けた化合物を選び出した。またPET用薬剤としてTGN-052を製造するために必要となる前駆体についても合成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一番目の目標であるAQP4に対するPET用薬剤の候補を選定でき、フッ素18標識されたTGN-052薬剤([18F]TGN-052)の製造にまでは至らなかったものの、必要となる前駆体の合成までは実現できたため、おおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
過去に開発した炭素11標識のAQP用PET薬剤([11C]TGN-020)はAQP1とAQP4の双方に結合する性質を有していたため、AQP4にのみ選択的に結合する薬剤候補を第一の目標としていたが、今後はAQP1に選択的に結合する薬剤やAQP4とAQP1の双方に結合する薬剤(これは[11C]TGN-020のフッ素版とも言える)の開発も進めていきたい。折からの半導体不足等の影響で年度末間近の導入となってしまったが、これまでに使用していたものより高速なコンピューターが使用可能となったので候補化合物の選別の高速化が可能になる見込みである。 フッ素18標識の薬剤を製造する際には被ばくを避けるために自動合成装置を使用するが、自動合成装置ではどうしても温度や圧力そして使用できる薬品の種類や量といった制約が多いことや、合成後に経静脈投与が可能な性状にまで精製や調製を行う必要があるため、PET用薬剤として使用できる状態の[18F]TGN-052の製造はやや難航している。しかしこれらは[11C]TGN-020製剤の開発により蓄積された知見等により十分に克服可能な問題であると考えており、AQP1選択的薬剤やAQP1とAQP4両用の薬剤の開発にも応用可能である可能性が高いことから、第二年度内に全ての候補薬剤についてPET用薬剤化を実現することが可能であり、少数例であってもPET撮像を行いうると考えている。 最終年度にはより多数のPET撮像を実施し、開発した薬剤の体内分布や毒性等の評価を行うとともに薬剤の代謝に伴う撮像結果への影響等についても調査を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
化合物データベースのスクリーニングを行うためのより高速なコンピューターを新規に導入する予定でいたが、半導体需給状態が悪く導入に大幅な遅れが生じてしまい、周辺機器等の購入を次年度に遅らせたこと。これに関連して既存のやや古いコンピューターでスクリーニングを行っていたため候補の化合物の選出に時間がかかり、結果として化合物の合成等に必要な薬品や理化学機器等消耗品の購入も非常に少なかった。 国内における新型コロナウイルス感染症まん延の状況を鑑み、移動を避けたため旅費を使用しなかった。 これらの理由により次年度使用額が生じた。基本的には当初予定より使用が遅延しているだけであるため、今後の使用計画については大きな変更を行わなくとも研究の遂行には問題が出ないものと考えている。
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