本研究では、収縮・膨張を繰り返してポンプの役割を果たす微小磁気駆動灌流パーツを開発・量産し、再生軟組織内部に分散配置して、外部磁場により組織自体が能動的に灌流(組織に培養液を流すこと)を発生・制御する方法を提案した。灌流パーツは、ポリウレタンと鉄粒子を混合して中空円筒状に固化させた微小チューブである。外部から磁場をかけると鉄粒子が引き寄せられて収縮し、磁場を取り除くとポリウレタンの弾性によって元に戻る。よって、磁場を周期的に印可すると、ポンプのように作動する。 令和3~4年度は、灌流パーツ作成法として、ポリウレタンが溶けた溶液を金属線の先端に付着させ、溶液が乾燥する前に鉄粒子をまぶし、乾燥後に金属線から引き抜く方法を提案した。XYZステージとソレノイドを用いてこの作成法を自動化する灌流パーツ作成装置を製作し、ほぼすべてのプロセスを自動で行うことが可能になった。さらに、作成した灌流パーツにネオジム磁石を近づけたり遠ざけたりすると、圧縮・膨張が起こることも確認した。また、金メッキを施した鉄粒子を含むポリウレタンフィルムに線繊芽細胞を播種する培養実験を行い、金メッキが鉄粒子の細胞培養適合性を高めることを確認した。 令和5年度は、一部に残っていた手動操作を無くして灌流パーツ作成装置を完全自動化し、灌流パーツの大量生産を可能にした。灌流パーツに磁場を周期的に印加するため、ネオジム磁石をZステージで上下動させる磁気駆動装置を製作した。最後に、細胞培養実験を行った。組織モデルのコラーゲンゲルと線維芽細胞をディッシュに入れ,金メッキ鉄粒子を含む灌流パーツを複数個並べ、全体を培養液に浸した。磁気駆動装置を使って磁場を周期的に印加し続けた結果、培養液の灌流が発生し、細胞の増殖・活性化が促された。以上の結果から、本研究で提案した灌流パーツが細胞培養に有効であることが示唆された。
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