本研究では、Fe4Nに第三元素を添加した単結晶薄膜を作製し、フェルミ準位制御、多層構造化を通じて、異常ネルンスト効果を利用した熱電変換素子の実用化への指標である、室温で10 μV/Kを超える異常ネルンスト係数の達成を目的としている。 令和5年度は、分子線エピタキシー法により、Fe4-xRuxN薄膜およびFe4-yPtyN薄膜を作製し、異常ネルンスト効果の評価に取り組んだ。xおよびyは0.13以下の値で変えた。反射高速電子回折およびX線回折測定により構造を評価した結果、エピタキシャル成長を確認できた。作製した試料を微細加工によりホールバー形状に加工し、ゼーベック効果、異常ネルンスト効果、異常ホール効果を評価した。結果、Ru置換量の増加に伴い、異常ネルンスト係数が減少した。これは、Ru置換によりゼーベック係数の符号が負から正に変化したためであり、Ru置換では異常ネルンスト効果は増強できないことが分かった。一方で、FeをPtで置換した場合は、単層Fe4N薄膜の1.2倍程度の異常ネルンスト係数の増大を確認できた。これは、Pt置換によって横熱電係数が増大したためであることも明らかにした。 上記に加えて、熱酸化シリコン基板上に多結晶Fe4N薄膜を作製し、ゼーベック効果、異常ネルンスト効果、異常ホール効果を評価した。結果、単結晶MgO(001)基板上にエピタキシャル成長したFe4N薄膜と同等の特性が得られたことから、Fe4Nにおいてはこれらの物性は結晶性にほとんど影響されないことが分かった。今後は、実用デバイスに適したフレキシブル基板上に、Fe4-yPtyN薄膜と非磁性体材料との多層膜を作製し、異常ネルンスト係数の更なる増大を目指す。
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